セキュのCarence(待期期間)についてはすでにいくつかの記事の中で紹介していますが、日本人の私たちには少し分かりずらいですよね。
フランス人でもよく分かっていない人がいます。
Sécurité socialの制度改正の議論の際にも、Carenceを延長する等々何かと話題になっています。
この機会に、病気の際にセキュと会社から支払われる手当金の待期期間についてまとめてみましょう。
Carence(待期期間)とは?
病気、労災、産休で会社を休んだ際に条件を満たしていた場合に限り、フランスのSécurité social、いわゆるセキュと会社の双方から傷病手当金を受け取ることができます。

セキュから休養時の給料手当金を受け取るためには、最低基準の労働時間と給料に対するCotisations(負担金)を納めている必要があります。
条件の詳しい内容については下記リンク先の記事を参照してください。
ただし、手当金の支払いには待期期間が設けられています。これが、Canrenceと呼ばれるものです。
待期期間中は、セキュからの手当金はありません。
待期期間やセキュの支給条件については、過去の記事も参考にしてください。
セキュと会社、二つの待期期間
セキュと会社のCarenceは同一ではありません。以下で詳しく見ていきましょう。
セキュの待期期間
基本的には病気だけが3日の待期期間でほかのモチーフは待期期間0日=休んだ初日からセキュからの手当金が振り込まれます。
休養のモチーフ | 待期期間 | 参考基本給を基にした手当金の割合 |
病気(Arrêt maladie) | 3日 | 50% |
労災(Accident du travail) | 0日 | 最初の28日→60% 29日以降→79% |
通勤上の事故(Accident de trajet) | 0日 | 最初の28日→60% 29日以降→79% |
業務上の疾病(Maladie professionnel) | 0日 | 最初の28日→60% 29日以降→79% |
産前産後休暇(Congé Maternité) | 0日 | 実質100%(上限あり) |
妊娠に関係した病気(Congé pathologique) | 0日 | 実質100%(上限あり) |
病気等による短時間勤務(temps partiel thérapeutique) | 0日 | 100%(上限なし) |
Convention collective(団体協約)の待期期間
セキュからの支払いを受けたあと、会社側がConvention collective(団体協約)に従って不足分を支給します。
「誰が」「何日目から」「何日間」「何パーセント」の手当金を支給されるかは、Conventionによって千差万別です。
例えば私の勤務先のConventionでは、1年の勤務年数がある全ての社員は1日目から給料の100%が90日間、管理職は180日間が会社側から保障されます。
例1) 病欠の1日目から100%の手当(待期期間なし)
病気の初日から3日間はセキュの待期期間です。一方で会社側のConventionは待期期間がなく病欠の1日目から給料の100%なので、初日の3日は会社が100%負担します。4日目からは、セキュからの支給分を除いた残りを会社が負担します。

例2) 病欠の8日目から90%の手当(7日の待期期間)
会社側のConventionが7日の待期期間を設けており、8日目から90%の給料手当を支給する場合です。
セキュの3日の待期期間はかわりません。
ただし、会社側のCarrenceがセキュよりも長いので、病気で休んだ社員は3日間は完全に無給、4日間はセキュの50%のみとなります。8日目から会社側の手当が支給されますが、休んだ日の日当の90%が上限です。

病気以外のモチーフの場合の待期期間
病気以外の理由で会社を休む場合、基本的な仕組みは同じです。セキュがまず支払い、その後に会社側がConventionに従って日当を補います。
労災や職業に関わる疾病、通勤上の事故等はセキュの待期期間は0です。休んだ1日目から支払われます。
日当も病欠時より割合が高くなります。
会社側のConventionも病欠と労災等では内容が違う場合があります。例えば勤務年数の条件がなかったり、セキュと同様に1日目からの支払い等、より良い内容となっている場合がほとんどです。
Convention?労働法典?Alsace-Moselle?一番有利なのはどれ?
CPAMのCarence、待期期間はどの地域も同一です。病気の場合は3日です。
一方で、会社側からの手当は、Conventionと労働法典とAlsace-Moselleの地域法、どれを採用するかによって違ってきます。
Convention 対 労働法典
Convention collectiveは職業の法ともよばれ、各業界の労働組合と使用者団体の間で締結された、給与体系、労働条件、雇用条件、福利厚生等を定めた労働条件全般に関わる労働協約のことです。
Convention collectiveには大事な「お約束」があり、それが労働法典の内容を下回ってはいけない、です
Convention collectiveの内容が労働法典を下回った場合、労働法典の内容が優先されます。
労働法典が定める会社からの傷病手当金
労働法典が定める傷病手当金受給の待期期間は7日です。
1年以上の勤務年数がある場合、8日目以降、下の表に従って傷病手当金を受け取ることができます。
会社での勤務年数 | 手当金の総支給期間と負担割合 |
1年から5年 | 60日(30日間×90%、31日目から66,66%) |
6年から10年 | 80日(40日間×90%、41日目から66,66%) |
11年から15年 | 100日(50日間×90%、51日目から66,66%) |
16年から20年 | 120日(60日間×90%、61日目から66,66%) |
20年から25年 | 140日(70日間×90%、71日目から66,66%) |
26年から30年 | 160日(80日間×90%、81日目から66,66%) |
31年以降 | 180日(90日間×90%、90日目から66,66%) |
手当金の支給期間は過去12ヶ月に遡った合算です。
例えば2025年3月1日から31日まで、31日間病気で会社を休んだとします。
2025年3月1日から7日までが労働法典が定める待期期間です。
3月8日の時点から過去12ヶ月(つまり2024年3月8日から2025年3月7日)ですでに病気等の理由で傷病手当金の受給期間を全て消費してしまった場合、支払われる手当金は0です。
Conventionが労働法典を下回る場合
Conventionが労働法典を下回る例として、例えばホテル、カフェ、レストラン(HCR)が挙げられます。
HCRの労働協約内容では、会社から傷病手当金を受け取れるのは3年以上の在籍で、病気の場合には11日の待期期間の後、30日間×90%、31日目より66,66%です。
この場合、労働法典のほうが従業員側にとっては有利なので、Conventionではなく労働法典の内容が優先されます。
Convention 対 Alsace-Moselleの地域法
歴史的な事情を背景に、アルザスモゼール地域で働く人にはAlsace-Moselleの地域法が適用されます。
Alsace-Moselleの地域法はしばしば労働法典および各業界のConventionよりも有利な場合がほとんどです。
傷病手当金に関して言えば、3日の待期期間はなく、病気で休んだ1日目から100%の手当を受けられます。
セキュのルール、病気の時は3日の待期期間に変わりはないので、この3日間は会社側が負担します。

まとめ
Carenceの仕組みについて詳しくみてきました。
まずCarenceにはCPAMが課す待期期間と会社側がConventionもしくは労働法典に従って課すCarenceがあり、その日数は必ずも一致しません。
また、会社側は、原則的にはConvetionと労働法典、会社の所在地がAlsace-Moselleにある場合はその地域法の3者の条件を見比べて、一番有利なものを従業員に適用します。
なお、労災、通勤時の事故、職業に関わる疾病、産前産後休暇、育児休暇等々の場合、会社のConventionの内容も少し違ってきます。
特に労災、通勤時の事故、職業に関わる疾病では1日目から手当金の支給を規定している場合が多々あります。
手当金額の計算方法については、過去の記事に詳しいので参考にしてください。
なお、本文中に載せた労働法典が定める傷病手当金の支給条件は病気、労災、通勤時の事故、全ての場合に対応します。
一度は会社のConventionに目を通して、病気の際の傷病手当金の受給条件について確認しておくことをおすすめします。