はじめに~フランスの給料明細を知ろう

基礎知識
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はじめまして。

フランスの地方都市でGestionnaire de paieという仕事をしているTAMAKIです。
Gestionnaire de paieとは簡単にいうと、給料明細に関わる全てを取り扱う仕事です。

フランス人にもあまり知られていないGestionnaire de paieという仕事。

「給料明細を作る仕事?会計ソフトをピッと起動させてパっと印刷するだけでしょ?」

と言われることもあります。

しかし、Gestionnaire de paieの仕事はそれだけではありません。

従業員の入社時の契約書の作成から退職金の算出、病気になった際のSécurity sociale(社会保険)への申請、各種の有給休暇の計算、月々の給料明細に関わる計算(時間外労働、夜勤手当、早朝手当、休日出勤、などなど)、また給料から差し引いた分担金や税金を関連社会保険機構へ支払う、これら全てGestionnaire de paie の業務です。

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フランスの給料明細は世界一難解!?

あるコンサルタント会社の調査によるとフランスは世界で一番給料明細が複雑な国とのこと。

日本で給料明細といえばほぼ一枚の紙に出勤日、基本給、手当、控除などなどが並んだシンプルなものですよね。

しかし、フランスではずらーっと何十行にもわたり、時に3枚にもなる給料明細も珍しくありません。
フランスで働く人の3人に2人は自分の給料明細を理解していないと言われていますが、例えばSalaire Brut(給料の総支給額)から差し引かれるCotisations(分担金)の計算方法について専門職以外の人が理解するのは大変に難しいといえます。

2017年以降は給料明細を簡略化し分かりやすくしたもの(Bulletin clarifié)が一般的になりましたが、それでもなお35%のフランス人が自分の給料明細の間違いに気づいていないという調査結果がでています。これは、ヨーロッパ平均の28%を上回り、お隣のドイツの20%、イタリアの18%と比べてもかなり大きな開きがあります。

なぜフランスの給料明細は複雑なのか?

なぜフランスの給料明細は世界一複雑なのか?

まず第一に、フランスの労働法典で定められている給料明細の記載事項が多岐にわたるためです。
2023年7月以降新たにNet social が加わり、義務記載事項だけでおよそ30項目になります。 

例えば、フランスで働く大体の人はBrut(額面)とNet(実際に振り込まれる給料の総額)の違いは知っていると思います。

しかし、自分の給料明細を見ると、その二つの間にずらりと以下の項目があるはずです。

  • Net à payer
  • Net à payer avant impôt sur le revenu
  • Net imposable / Net fiscale
  • Net social (2023年7月以降)

Netと書いてあるけど、それぞれ数字が違うし何を意味しているんだろう…と疑問に思った人もいると思います。このNetの項目は毎月の給料明細に記載が義務付けられています。

義務ということは、その必要性があるということです。しかし、その意味するところを知らないと、何か自分の知らないところで給料から勝手に天引きされているのでは…と不安になることもあります。

第二にフランスの社会保障制度の複雑性です。

フランスの社会保障は職域によって制度が異なります 
このサイトでは主に全体の80%にあたる民間企業で働く人向けに書いていますが(いわゆる一般制度Régime général)、フランスにはほかにも公務員・国鉄職員、農業従事者、個人事業主を対象とした制度が存在し、それぞれ運営機関も異なります。

以前、民間に出向している公務員の人の給料計算を担当したことがありますが、彼らはCotisations(負担金)の計算方法、負担割合の比率、Cotisationsを収める機関など、民間とは別のものでした。

第三に、明確であることを求めるフランス人の性格です。

明晰ならざるものはフランス語にあらず、という言葉通り、明晰ではない給料明細は明細にあらず

考えてみると当然ですよね。自分が働いて得たお金です。
毎月いくら稼いだのか、そのうち何割がどの機関に分配されるのか、というのは当然に知るべき情報であり、その情報に唯一アクセスできるのが給料明細なのです。

たとえ理解できなくても、自分の生活に関わる情報は明確に記載してほしいしそうあるべき。それは労働者の権利のひとつである、というフランス人の考え方はフランスの給料明細がかくも複雑なものであることの一因であることに間違いないと思います。

しかし、言い換えれば、フランスの給料明細には我々が最低限知っておくべき全ての情報が記載されているということでもあります。

Netだけみればいい ?

フランス人でもわからないフランスの給料明細。
結局、Netの金額だけをみればいいのでしょうか?

もちろん、Nonです。Non, Non, Nooooon !!! です。

GPは間違える

上司
上司

ねぇ、ねぇ、Tamakiさん

Tamaki
Tamaki

はーい、なんですか?

上司
上司

この人、13mois(ボーナス)が2回振り込まれちゃってるんだけど・・・

Tamaki
Tamaki

げぇっ!?

上司
上司

C’est normal ? (これって普通?)

Tamaki
Tamaki

普通…じゃない…(わかってて聞いてるなコイツ)

はい、間違えます。給料計算が専門です、と言いつつ間違えます

理由は様々です。GPの知識不足、単なる入力ミス、情報伝達の不備・・・。

GPは一人で月に大体300人から400人の給料計算を担当します。

例えば2022年7月からの団体交渉の結果、12月に全従業員の給料が4%昇給することが決定したとします。交渉結果は遡及適用されるので、翌年の2023年1月の給料に2022年7月からの昇給分の差額がまとめて支払われることになります。

優秀な会計ソフトであれば、この差額分の計算を自動でやってくれるのですが、そうでなければ、手作業になります。300人分を手作業で・・・!!!

もちろん、ミスも発生しやすくなるのです。

ちなみにボーナスの件は、ある社員が別の店舗に転勤したことによるミスでした。1月1日の時点で在籍している私の担当店舗で払われるはずのボーナスがなぜか前の店舗でも払われていたのです。

さすがにこの規模のミスはめったにありませんが、払い忘れ、もしくは払い過ぎ、計算間違え等々は日々起こります。

RH(人事)も間違える

RH
RH

Tamakiさん、あのさ、〇〇さんにユニフォーム洗濯手当つけ忘れてたみたい

Tamaki
Tamaki

あーじゃあ来月の明細で修正しますね。いつからですか?

RH
RH

2年前から

Tamaki
Tamaki

おぉう…2年前から…

RHもよく間違えます

RHもしくは店舗マネージャーは現場の人事を担当します。

RHが給料会計を兼ねることもありますが、多くの中小企業では会計事務所に給料明細の作成を外注しています。専門のGPがいる会社は大体400人以上の従業員がいる場合でしょうか。

いずれにしても、GPは現場で他の従業員と働くことはないので、収入に関わることはRHから毎月送られてくる情報以上のことを知り得ません。

そこで記載漏れがあると、従業員本人に指摘されるまで気づかない、ということもあります。

私の夫も同僚とのコーヒータイムに給料の話になり、自分にだけある手当が支払われていないことに気づいたことがあります。

RHに問い合わせたらミスを認めて、14か月分にさかのぼって支払われました。

ちなみにこの逆もあります。給料の払い過ぎです。

その場合、雇用主側は間違いに気づいてから3年を限度に従業員に対して払い過ぎ分の返還を求めることができます。

会計ソフトも間違える

会計ソフトも間違えます

給料計算ソフトは代表的なもので10種類ほどあり、それぞれ長所短所があるのですが、ひとつ言えることは、どの計算ソフトも過去の給料明細を修正することを好まないということです。

例えば上記の2年にわたる洗濯手当の払い忘れの場合、会計ソフトは過去2年分の給料明細を取り消して再計算を行います。こういった過去にさかのぼって計算を行うと、翌月以降の給料明細での計算にバグが出やすくなります。

給料部分のバグは割と分かりやすいのですぐに修正されますが、意外と見落とされがちなのがCongés Payés(有給休暇)の取得日数に生じるバグです。

CDD(有期雇用)からCDI(無期雇用)への移行、連続したCDD契約、所属先の移動などの際にCPの移行がスムーズに行われていない場合があります。

自分の給料明細を理解するのは大事

実際のところ、給料を含めた労働条件を真に理解するためには勤務先に適用されているConvention collective(団体協約) とAccord d’entreprise (企業内協定)を知る必要があります。

しかし、これは決して簡単なことではありません。Conventionは時に参考書並みの厚さをもち、企業内協定は過去に遡って確認する必要があるからです。

もし給料明細に疑問が生じた際、直接RHに問い合わせるのが一番確実な方法です。RHでもわからない場合、GPに連絡がいきます。

しかし、何が、どう間違っているのかわからなければRHもしくは雇い主に問い合わせることさえできません。

実は私も、過去にすごく悔しい経験をしたことがあります。

過去の経験から学ぶ、給料明細の重要性

パティスリーで働いていた時のことです。
新規店舗オープンのスタッフとして採用されたのですが、契約時に新店舗の経営が軌道にのるまで6か月間CDD契約で、そのあとCDI契約にしたい、と言われました。

結局お店の経営はうまくいかず、6か月のCDD契約を2回、計1年働いた後に契約終了となりました。

それから5年後、転職してGPとして働いていたある日のこと。CDD従業員の契約満了時につくPrime précarité (不安定雇用手当)の金額を計算しているときのことです。

ふと、本当にふと気づいたのです

Tamaki
Tamaki

あれ、私、パティスリーでCDD契約終了したときにPrime précaritéもらったっけ?

家に帰って急いで当時の給料明細を確認しました。

Tamaki
Tamaki

あぁぁぁ!もらってない!ヒドイ、人のいい顔して騙していたなんて!

CDDの場合、契約満了するとPrime précarité (不安定雇用手当)が最終日に支給されます。これは契約期間のSalaire brut(額面)の総額の10%です。例えば1年間の契約期間の総支給額が24000€だとすると、その10%の2400€がPrime Précaritéに当たります。

Prime précaritéには支払わなくてもよい場合がいくつかあり、CDDからCDI 契約の打診を従業員側が拒否した場合がそれにあたります。

パティスリーの経営者は嘘の申告を会計事務所にして、私のPrime précaritéを支払わなかったのです。

もし私がフランスの労働条件や契約の内容について注意深くチェックしていれば、すぐに問い合わせることができたのに…5年もうっかりしていたとは…悔やんでも悔やみきれません。

フランス人でも理解しがたい給料明細を外国人である我々が理解することは決して容易ではありません。しかし、最低限の知識を持たずにいれば、過去の私のように騙されることになるのです。

さいごに

自分の母国語以外のところで働くということは本当に大変なことです。言葉がスムーズに話せても話せなくても、異なる社会組織のなかでその仕組みを一から学んでいくことは大きなストレスを伴います。

それでも、その一歩を踏み出したフランスで働くみなさんの一助に、

これから働く人にとっては予備知識として、

そしてすでに長年働いている人にとっては日々のちょっとした疑問が晴れるように、

このサイトがその助けになればと思っています。

コメント

  1. しよう より:

    こんにちは。
    フランスで働いてる者です。私が正に探していたサイトで、本当にありがとうございます!今まで自分なりに給料明細を理解しようと情報集めるもフランス語理解力不足もあり、あまり分かりませんでした。
    私の職場でも給料明細の間違いがかなりありました(ナビゴ代記載なし、ミチュエル記載ありも加入されてなかった等)。
    こちらのサイトを利用させていただいて、自分の明細をきちんと把握したいと思います!
    更新記事を楽しみにしております。^_^

    • Tamaki Tamaki より:

      こんにちは。
      フランスの給料明細は複雑ですよね。
      私もフランスで働き始めたとき、何が引かれているのか自分で調べようと試みるも、全く理解できませんでした。
      サイトを利用してもらえてうれしいです。
      フランスで働くもの同士、頑張っていきましょうね。

      • しよう より:

        お返事ありがとうございます。
        今後も利用させてもらい、私も勉強していきます。有益な情報、本当にありがとうございます。

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