Accident du travailとは勤務中に事故にあったり、それが原因で病気になったりする労働災害を指します。
勤務中に梯子から落ちて足を骨折したというような大きな事故はもちろんですが、廊下で滑って尻もちをついたような場合もAccident du travailに分類されます。
その時はなにも異常はなくても、後日、その時のケガが元で会社を休むことになるかもしれません。Accident du travailについてちゃんと知り、もしもの時に備えておきましょう。
Accident du travailにあたる場合とそうではない場合
Accident du travailとして認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 勤務中の突然かつ予測できない事故
- その事故によって身体的もしくは精神的な損傷を受ける
勤務中の突然かつ予測できない事故、とは少し分かりづらいかもしれません。
例えば、パソコンで事務作業中にデスクの後ろの段ボールが倒れてれきて背中に損傷を受けた場合、これはAccident du travailです。しかし、長年のデスクワークの結果、少しずつ背中に痛みがはしるようになり、仕事に支障がでるようになった場合、Accident du travailではなくMaladie professionnelに分類されます。
同様に、勤務外での事故、例えば自宅へ帰る途中での事故はAccident de trajetです。
では、仕事の休憩中におきた事故はどうでしょうか?
これは、Accident du travailとみなされます。勤務中とは、つまり仕事をしている状態のことではなく、勤務先で雇用主の影響下および監視下に置かれている状態を指すのです。
Covid以降、多くの企業でテレワークが定着しましたが、テレワーク中の労災認定はどうなっているでしょうか?
テレワーク中の労災認定も、上記と同様の条件で行われます。ただし、会社と交わした協定内でテレワーク中の勤務先を自宅と指定していたにも関わらず、別の場所で仕事をしていた場合に起きた事故についてはAccident du travailとは認められません。
労災からの休業に際しての給料補償
勤務中の事故が原因で仕事を休むことになった場合、休業補償手当が受け取れます。Arrêt maladieの記事で説明したように、Accident du travailの場合も、
- Sécurité sociale(公的健康保険)からの休業手当
- Convention collective(団体協約)もしくはCode du travail(労働法典)の内容を基準にした雇用主からの給料補償
の二つのレベルで給料が補償されます。ただし病欠時とは違い、Accident du travailの場合、セキュの3日の待期期間はなく、1日目から休業手当が支払われます。以下、詳しく見ていきましょう。
事故から給料補償を受け取るまでの流れ
事故が起きてから、休業手当を受け取る流れは以下のようになります。
- 事故を報告する
- 雇用主が健康保険事務所に事故報告を行う
- 事故が原因で会社を休む場合、医師に証明書をだしてもらう
- 社会保険事務所が労災申請の審査を行う
- 申請が認められた場合、セキュから手当金が支払われる
- 雇用主から給料補償を受ける(条件あり)
- 症状の再発もしくは症状の固定
①事故を報告する
事故が起こったら、その直後に(遅くとも、事故が起きてから24時間以内に)、事故が起きた現場から雇い主、RH、直属の上司にSMS、メール、電話のいずれかの手段を用いて報告する必要があります。
ただし、事故後すぐに病院に運ばれたなどで連絡することができなかった場合は、この限りでありません。
事故が起きた現場から離れた場合、報告は配達証明付きの手紙で行われる必要があります。
皆さんも経験があるかもしれませんが、打撲、捻挫程度の軽い事故だと「大したことはない」と見過ごしてしまいがちですよね。たとえば、脚立から滑って足をひねったが、その時は痛みを感じなかったので勤務を続行して、帰宅してから足が腫れだして動けなくなった、というような状況です。
その時は大したことはなくても、後々、重大な症状をもたらす場合も考えられます。何か事故が起こったら、念のためすぐに上の人間に報告して、労災報告書を作ってもらうほうがいいでしょう。
②雇用主が健康保険事務所に事故報告を行う
事故の報告を受けたら、雇用主側はDéclaration d’accident du travail(労災報告書)を作成し、48時間以内に健康保険事務所(CPAM)に送ります。報告書はインターネット上もしくは用紙に記入する形で行われます。
万一、雇用主側が労災報告を怠った場合、従業員は自ら労災報告の手続きを行うことができます。
雇用主側は労災報告書とは別に労災証明書(Feuille d’accident du travail)を作成し当事者に渡します。病院、薬局に行く際はこの紙をみせることで100%の払い戻しが受けられます。
仕事を休むほどではなくとも、薬局で手当が必要な場合もあるので、この紙は休む休まないに関わらず必ずもらっておきましょう。
③事故が原因で会社を休む場合、医師に証明書をだしてもらう
事故の結果、状態が思わしくない場合、医師の診察を受けて証明書を出してもらうことになります。これは、労災休養証明書で、病欠証明書とは体裁が違います。
労災用の証明書は医師が1枚目を健康保険事務所に送付し、2枚目を患者に渡します。この2枚目を雇用主側に送り、会社を休むことを知らせましょう。
④CPAMが労災申請の審査を行う
雇用主側からの労災報告書と医師から労災休養証明書を受け取ったのち、健康保険事務所は労災認定の審査を開始します。プロセスは以下の通りです。
- 事故が起きた状況に疑問がある場合、雇用主は労災報告書から10日以内に異議申し立てを行う。
- 10日が経過し、雇用主側から異議申し立てがなかった場合、セキュは30日以内に労災認定をし、補償金の支払いを開始する。
- 雇用主側からの異議申し立て、もしくは健康保険事務所が必要と判断した場合、70日を限度に調査が行われ、その結果が雇用主側と従業員側の双方に告げられる。
- 決定に対して意見がある場合、双方、10日以内に調査委員会に訴えを行う。
- 全てのプロセスは労災報告書と労災休養証明書を受け取ってから90日を限度に下される。
少し複雑ですね。簡単にまとめると、
・ 異議申し立てがなければ、30日以内に労災が認められて休業手当金を受け取れる
・ 異議申し立てがあった場合は、90日以内に判断が下される
ということです。
⑤申請が認められた場合、セキュから手当金が支払われる
労災休養証明書を受け取ったら、雇用主側は給与証明書を作成し、健康保険事務所に送ります。労災の場合、最初の28日は60%、29日目以降は80%(実質79%)の手当金が受け取れます。
労災にも関わらず、セキュから病欠時と同じ50%の手当金しか振り込まれないことがありますが、心配はいりません。
上で見たように、労災認定を受け手当が支給されるまでに最長で90日かかります。その間、当事者が困窮した状態に置かれないように、雇用主側は労災と病気で別々の給与証明書を作成し、セキュは当座のお金として病欠時の手当金を振り込んでくれるのです。
労災が正式に認められたら、セキュは改めて60%、その後80%で計算し、差額分を後日受給者に振り込みます。
条件
労災の場合はセキュからの支払いに条件はありません。働き始めた翌日に労災で休むことになっても、手当金が受け取れます。また、契約形態(CDI、CDD、見習い等)も勤務時間も問題ではありません。
支払い方法
病欠時と同様に、セキュからの支払い方法は2つです。
- CPAMから自分の銀行口座に振り込まれる
- 会社が手当金を肩代わりする代わりにセキュからの手当金を会社が受け取る(Subrogation)
期間
労災の場合、待期期間はありません。休んだ1日目から休養手当金が受け取れます。
なお、事故が起こった当日はセキュは補償しません。事故当日の給料は100%雇用主の負担です。
病欠時と同様に、土曜、日曜、出勤日であるかないかに関わらず、手当金は月のカレンダー同様に計算され支払われます。例えば、8月1日から31日まで休んだ場合、手当金は31日分で計算されます。
セキュからの支払い期限は、病気が完治するまで、もしくは症状が固定したと判断されるまでです。
⑥雇用主から給料補償を受ける(条件あり)
CPAMから手当金が給付された後の不足分を雇用主側が各Convention collective(団体協約)もしくはCode du travail(労働法典)の基準に沿って補償します。
条件
多くのConventionで労災の場合は勤務年数等の条件を設けずに、1日目から100%の給料補償を規定しています。一方でCode du travailの基準は病気の時と同様です。以下、Code du travailの条件です。
- 病欠の初日を起点に1年間の勤務実績があること
- 雇用主に48時間以内に病欠証明書を提出した
- セキュから手当金の支払いを受けていること
- フランス国内もしくはヨーロッパ経済圏内で診療をうけた
- 在宅労働者、季節労働者, 不定期に働く労働者(intermittent)は給料補償の対象から除く
支払い方法
雇用主から給料補償を受ける際、病欠時と同様に2つの方法があります。
- セキュからの手当金の支払い証明書を雇用主に提出し、雇用主はその金額をもとに補償金を計算、従業員の給料に追加する。
- Subrogation(肩代わり)のシステムを採用している場合、雇用主はセキュからの手当金を見積り、手当金+補償金が病欠の月に支払われる。後日、雇用主は従業員の代わりにセキュから直接手当を受け取るので、支払い証明書を提出する必要はない。
期間
雇用主補償が受けられる期間は各Conventionによって違うので、雇用主もしくはRHに確認しましょう。Code du travailでは以下のように定めています。病気の場合は7日の待期期間がありましたが、労災の場合は待期期間はなく、1日目から補償されます。
Code du travailの基準だと、31日目から66,66%の補償で、セキュからの手当金の80%を下回ることになります。その場合、当然ながら雇用主からの補償はありません。
仕事を2か所以上掛け持ちしている社員の場合はどうなるでしょうか?
たとえば、ある社員がA社とB社の2か所でパートタイムの仕事をし、A社で事故に遭い労災として雇用主補償を行う必要があるのか?
答えはOuiです。
労災報告書(Déclaration d’accident du travail)はもちろんA社が作成しますが、B社もA社と同様に労災として給料証明書を作成し、雇用主補償を行う必要があります。
A社では労災、B社では病気扱い、とはできません。
⑦症状の再発もしくは症状の固定
最初の労災休養証明書の終了日が近くなったら、再度、医師の診察を受けます。
回復
症状が回復し、職場に復帰できる場合、医師は回復証明書を出します。
休養の延長
症状が改善しない場合は、延長証明書をだしてくれるので、再度、雇用主に提出します。
症状の固定
医療的行為を継続しても症状の回復が見込めないと医師が判断した場合、症状の固定=Consolidationの証明書が出されます。症状が固定した場合、セキュからの労災手当金は打ち切られ、Incapacité permanence、日本でいう障害補償給付金を受け取ることになります。
症状の再発
症状が回復したのち、数日後、数か月後、もしくは数年後に再発し仕事を休まざる得なくなるのをRechuteと言います。その場合、医師は症状に起因する労災が起きた日付を記したRechute(再発)の休養証明書を出します。セキュは60日を限度に休養と過去の労災との因果関係を調べ、調査結果を雇用者側と従業員側の双方に連絡します。
因果関係が認められれば、労災休養と同じ割合の手当が受け取れます。認められなかった場合、病気療養と同様の扱いになります。
まとめ
労災は社会人生活を送るうえで、誰にでも起こる可能性のあるものです。
私たちはとかく物事を大事にすることに気がひけ、事故があっても「なんでもない、大丈夫」と言ってしまいがちですが、上でみたように労災の場合の手当金、給付期間、給付条件等、病欠時とは大きく違います。
また、人事側にしても、事故にあって3日もしてから「実はあのとき・・・」と言われても困ってしまいます。
事故にあったらすぐに雇用主、上司もしくはRHに連絡して労災の手続きを行いましょう。
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