病気、労災、または産休で会社を休む際、Subrogationのシステムを採用している会社では、条件を満たした従業員は会社側が欠勤時の給料を即時に補填してくれます。
従業員にとっては、大変にありがたいシステムなのですが、給料明細上はBrut とNetの間で+と-が行きかう、「これって大丈夫なの…?」と不安になること間違いなしの記載が続きます。
実際に心配になった従業員からもよく問い合わせがあります。
私の給料明細、どうなってるの…
大丈夫、心配いらない、Tout est normalということを理解するためにも、Subrogationの仕組みと給料明細上の動きについてこの記事で見ていきましょう。
Subrogationの意味
Subrogationとは肩代わりという意味です。
休養時の一般的な給料補償の流れは以下のようになります。
- 病気で会社を休む
- 休んだ分の給料が明細から引かれる
- セキュから手当金の支給を受ける(最短で15日)
- 手当金の支払い書を会社のRHに送付する
- 条件をクリアした場合、会社側はセキュからの手当金を差し引いた雇用主補償分を支払う。
例えば待期期間なしで100%の給料補償を雇用主側から受け取れる場合、実質的には休んだ時でも給料はほぼ±0になります。ただし、従業員側は一時的に給料が少ない状況に置かれます。
1週間程度の休養ならまだしも、2週間以上の病欠が続くと、従業員側にとっては死活問題となります。また、セキュからの手当金の振込は順調にいけば約2週間後ですが、書類の不受理、喪失等があるとさらに長引きます。
Subrogationはこうした困窮状態に社員が置かれることを防ぐために、会社側がセキュの手当金を一時的に肩代わりし、雇用主補償を前払いするシステムです。つまり、上記の3から5の手続きを2の段階で同時に行うのです。
セキュからの手当金は会社側が受け取るので、従業員がすることは何もありません。全て会社側が手続きを行います。
Subrogationのシステムは誰が享受できる?
Subrogationは病欠、労災、業務上の疾病(Maladie professionnelle)に対して行われます。会社によっては産休時も含めます。
雇用主側がConvention collectiveの条件に従い100%の給料補償を行う場合は、Subrogationの実施は会社側の義務となっています。100%以下の場合、例えば90%の給料補償等の場合、Subrogationを実施するかしないかは会社の自由です。(ただし、Convention collectiveで実施が義務付けられている場合もあります)
なお、Convention collectiveと雇用主補償については以下を参照してください。
先述のように、休養証明書をCPAM(社会保険事務所)に送る以外に従業員側からの手続きはありません。
Subrogationの仕組み
実際にSubrogationが行われる際の流れを見ていきましょう
Convention collectiveに従い、従業員は待期期間なしで1日目から60日間、100%の給料補償を受け取れるとします。
基本給が2000€で20日休んだ場合、1290,32€が減額されます。
従業員は100%の補償を受け取るので、同じ金額がIndemnité maladieとして振り込まれます。±0ですね。
ただし、雇用主補償はあくまでもセキュからの手当を補完するものです。そこで、Dédcution IJSS Brutesが一行挿入されます。
IJSSとは?
IJSS とはIndemnité journalière sécurité socialeの略で、セキュからの一日あたりの手当金のことを指します。
従業員が病気等で休んだ際、会社側が給料証明書をCPAMに送り、それを基にIJSSの金額が決まります。
なお、IJSSはCSGの対象になります。
CSGについては以下の記事を参照してください。
CSGの税率は2023年11月現在6,8%です。これに1,75%の軽減率を加えた6,7%がIJSSから天引きされます。
例えば病欠前の3ヶ月の給料の総額が2000 x 3 = 6000€の場合、一日当たりの手当金は
(2000 x 3) / 91,25 x 50% = 32,88€
これがIJSS BrutでCSGが引かれる前の金額です。そこに6,7%を引いた30,67€がIJSS Netと呼ばれ、実際に振り込まれる金額になります。
セキュから手当金を受け取ったことがある人は、支払い証明書を確認してみてください。CSGが引かれているはずです。
IJSSはCotisationsの対象にはならない
セキュからの手当金はCotisationsの対象にはなりません。また、税金(CSG)はセキュがすでに天引きして納めているので、これも除外されます。よって、以下のようにBrutの項目から引かれます。
ちなみに、病気の際、セキュは3日間の待期期間を置きます。Jour de carenceと呼ばれるものです。
上記の例の場合、20日から3日の待機期間をひいた17日がセキュから支払われる日数になります。
IJSSはCotisationsの計算が終わったのち、Netの行に再挿入されます。
会社によって様々ですが、大抵は以下のようにCotisationsの合計の後に挿入されることが多いです。
休んでいる人が働いている時よりも稼いでしまう!?Garantie sur le netの役割
しかし、しかし、しかし、実際の給料明細は、上記のようにはなりません。
というのも、IJSSをBrutから引いて、Netに再挿入すると、Cotisationsから除外されている分、病気をしている時のほうが普通に仕事をしている時よりもNetの収入が増えてしまう、ということになるからです。
上記の例の場合、約80€も仕事をしている時よりも収入が増えます。
そこでBrutの行に挿入されるのが、Garantie sur le netもしくはMaintien du salaire netと呼ばれる1行です。
Garantie sur le netは休んだ月の収入が他の月と同様(Conventionによってはそれ以下)になるように、Netから逆算してその差額を調整する役割をしています。
1336,60からCotisationsを引いてIJSSをNetに再挿入した手取り収入は、普段の2000€からCotisationsを引いた手取り収入と全く同じ、もしくはそれ以下になります。
もちろん、以上の話は雇用主補償が100%の場合に限ります。補償の割合が90%, 75%等の場合は当然のことながら休んでいた時の給料は普段の手取りよりも少なくなります。
まとめ
初めてSubrogationの給料明細を受け取った人は、Brutの項目だけを見て、何故こんなに引かれているんだ!とびっくりするみたいです。
また、普段は見かけないGarantie sur le netの文字、しかもマイナスの表記に、不安になるようです。
確かに、給料明細上で引いたり足したりとたくさんの動きがあり、少し混乱してしまいますよね。
しかも実際の給料明細の場合、基本給だけということは珍しく、時間外労働や手当、先月の修正が加わったりしてさらに分かりずらいかもしれません。
なお、Subrogationは雇用主からの給料補償の期間を限度に実施されます。
休養が長期間にわたり、Conventionで定められた補償の日数を全て消費した場合、Subrogationは打ち切られます。
雇用主からの補償はなく、従業員はセキュから直接にIJSSを受け取ることになります。
会社によっては従業員を病気、労災をカバーするPrévoyanceに強制加入させているので、その場合はPrévoyanceから収入の補填が行われます。