今回は、フランスで初めて仕事をする人向けに、応募から面接、採用時の注意点などについてみていこうと思います。
フランスの就活と日本の就活は似通っているポイントもあれば、これはかなり違うな、という点もあります(例えば面接時の服装とか…)。
職種や役職等によって採用方法が違うのは当然ですが、この記事では、求人広告から応募するタイプのいわゆる「一般的な」就職活動についてまとめてみました。
仕事に応募する前の事前準備
仕事に応募する前に、いくつかの事前準備と確認作業があります。
フランスで仕事ができる滞在許可証?
なんといっても第一に確認すべきなのは所持している滞在許可証がフランス国内での労働が許可されているかどうかです。
当たり前ですが、観光ビザでは就労できません。
また、滞在許可証の期限にも注意が必要です。
契約時から3か月後に滞在許可証の期限を迎える場合などは、「じゃあ、新しいカードができたらコピーして提出してくださいね」で終わりですが、数週間後、数日後に滞在許可証の有効期限が切れる場合、レセピセ(仮の滞在許可証)を持っていたとしても、採用を断られる場合もあります。
健康保険証は必要?
いわゆるCarte Vitale、フランスの健康保険証には保険番号が記載されています。
この番号は個人情報と紐づけられ、会社側が行う雇用申請や、給料から天引きされる社会保険料、年金等々の宛先として用いられます。
ただし、健康保険証がいまだに手元にない場合でも仕事を始めることはできます。
申請中でまだカードが手元に届いていない場合は、会社側は仮の番号を発行します。
後日、カードが手元に届いたら申請して新しい番号に振り替えます。
よって応募時点での健康保険証の有無は問題ではないです。
自分名義の銀行口座を持っている?
給料の支払いとして、現金、小切手、銀行振込の3点がありますが、現金での手渡しはほぼ行われません。
小切手も場所によっては渋られるところもあります。
銀行振込の場合、必ず自分の名前の銀行口座の提出を求められます。
同居人、家族名義の口座への振込は認められていません。
銀行口座の開設には時間がかかるので、仕事を始める前に予め用意しておきましょう。
履歴書と志望動機書
いつでも応募できるように、履歴書と志望動機書は事前に準備しておきます。
日本と同じように、履歴書、志望動機書には決まった体裁、書き方があります。
インターネット上で沢山のサンプルがあるので、それを参考に書いてみてください。
CDI(正社員)の場合と同様に、CDD契約でも履歴書と志望動機書を要求されます。
履歴書に書く?書かない?
履歴書には自分の名前、連絡先、職歴、学歴等々を書きます。
一方で、履歴書に書いても書かなくてもよい情報というものもあります。
- 住所
- 生年月日
- 本人写真
この3点は採用時の差別的な選別を避けるために、付属的な情報として扱われます。
私自身は、上記の3点を必ず記入しています。人種差別的な職場ではそもそも働きたくないので、写真をみて「アジア人は採用したくない」と言うのなら、こっちこそ願い下げという気持ちからです。面接に呼ばれてお互いにがっかりするよりも、履歴書の情報で事前に判断してほしいです。また、住所については、治安の悪い住所に住む人を会社が取りたがらない、という理由からあえて載せなくてもいい、ということになっています。
ただ、政府からの補助金が支給されることもあり、むしろ治安が悪い居住地の人を積極的に採用したい会社もあります。
特に理由がなけば、住所、生年月日、本人写真は載せておきましょう。
求人募集に応募する
求人サイト
一番メジャーな求人サイトはフランスの職安、France Travail (旧Pôle emploi)のものでしょう。
他にも日本でもおなじみのIndeedやMonster等もあります。
個人的には、求人募集の検索だけなら、France TravailとIndeedの二つを見ておけば十分だと思います。France Travailはフランス語で書かれた求人募集を掲載しているので、EU圏内はもちろん、日本や中国、アメリカ、オーストラリア等々の勤務地も選択肢としてでできます。
口コミ、友人からの紹介
意外と仕事につながりやすいのが口コミや友人、知人、その家族等からの紹介です。
仕事を紹介してくれた人が職場で信頼されている人だったら、採用される率も高くなります。
横のつながりはフランスでは私たちが思う以上に重要視されています。
求職中なんだよね、転職したいんだよね、と日頃から周りにアピールしておきましょう。
履歴書を送りつける
これは私が実践して、効果があった方法です。
フランスでも日本でも、採用時に2年から3年の実務経験を求める場合が多く、未経験者でもOKという求人は少ないです。
そこで、求人募集をしていなくても、気になる会社、事務所、仕事先に直接メールと履歴書を送ってみましょう。
中規模以上の会社だとHPに求人のプラットフォームがあるので、Candidature spontanéeという題名で履歴書を送付します。
もしくは、会社の代表アドレスから直接メールしましょう。
私は仕事経験ナシの時に手あたり次第、50社以上にメールで履歴書を送り、5社から再度履歴書と志望動機書を送るようにという前向きな返事がきました。確率としては悪くないのでは?と思います。
面接までの流れ
履歴書が採用担当者の関心を引くと、担当者から電話もしくはメールで連絡があります。
うわぁぁぁぁぁぁぁ、知らない番号から電話が!これは、もしや採用担当者から!?
と最初はパニックになること間違いなしです。
フランス語に自信がある&メモを取れる環境にいる場合は、すぐに電話を取ってもかまいませんが、そうでない場合は電話にはでないでおきましょう。
担当者は会社名と連絡先を留守電メッセージに残してくれるので、一端落ち着いてからこちらから電話をかけなおしましょう。
電話で何を聞かれる?
採用担当者から直接面接日の日程について聞かれることもあれば、簡単な質問や自己紹介のようなものを求められる場合があります。
後者の場合、例えば応募した会社についての質問(企業の業務内容、専門性、なぜ応募したのか)や、募集要項のスキルについての質問等が電話口で簡単に行われます。
面接はオンライン、会社、事務所内で行われます。
日時、場所等を指定されるので、メモ帳の準備をしておきましょう。
いよいよ面接!
いよいよ面接当日です。
面接で聞かれる一般的な事柄を事前に復習して、自信をもって面接に向かいましょう。
面接時の服装、マナー
面接時の服装、マナーは日本人だと気になるところですよね。
服装については、フランス人の面接をみていると、男性も女性も普段着で来ていることが多いです。
現地企業(日系ではない)の採用面接でスーツ姿で来る人を私はみたことがありません。管理職の募集でも、ネクタイを締めた完全上下スーツは珍しいです。もちろん、企業の規模や職種によって違うとは思いますが…私は田舎に住んでいるので、パリではどうなのか気になっています。
いわゆる「普通の」面接であれば、日本のように服装に気にする必要はないです。普段着で全く問題ありません。面接者の中にはジーンズにTシャツで来ている人もいます。
面接時のマナーについても、時間通りに来る、遅刻する場合は予め電話を入れておく、口にモノをいれたままにしない(実際にガム嚙みながら担当者が来るのを待っている人がいました)等々、いわゆる「常識」を守っていれば細かいことに神経質にならなくて大丈夫です。
面接時に聞かれること
面接ではまず担当者の自己紹介の後に、必ず「自己紹介と学校卒業時から今までの経歴について簡単に説明してください」と言われます。
他にも、「なぜ我が社に応募したのか?」「志望動機は?」という質問があります。
その後、仕事の契約とその内容についての確認、例えば「仕事内容には電話対応も含まれるが大丈夫か?」や「週に1回、出張があるが問題ないか?」「夜勤、土日にもシフトにはいれるか?」等々について担当者と話し合いが行われます。
この機会に気になる点についてはしっかりと面接担当者に確認するようにしましょう。
また、面接担当者から少し変わった質問が投げかけられることもあります。例えば「貴方が理想とする上司像は?」「この職種に必要な資質とは?」「同僚と意見が割れたとき、貴方ならどう解決する?」といった質問です。
基本的に日本のような圧迫面接ではなく、和やかな雰囲気で行われる場合が多いのですが、緊張すると言葉がうまく出てこないこともあるので、家族が友達と模擬練習をしたり、ビデオを見て面接の予習はしといたほうがいいと思います。
実技テストはある?
CDD等の短期雇用の場合は面接のみで終わる場合が多いですが、CDI採用の場合、例えばパソコンの知識を確認するために実際にエクセルでいくつかテストをさせられたり、筆記の問題がだされたりします。
テスト内容は応募先の職種によって様々ですが、面接官から事前にテストについての案内があるはずなので、事前に準備しておきましょう。
給料金額の交渉について
求人募集にSMICと書かれていた場合は、法定最低賃金が支払われるということです。
金額を交渉する余地はありません。
一方で、募集に例えば「1800€から2500€、経験によって変動あり」という記述やそもそも給料に関する記述がなかった場合、面接担当者から「給料金額の希望はありますか?」と聞かれるので、事前に自分の希望金額とその職種に関する市場の平均給料額との擦り合わせを行っておいた方がいいでしょう。
低く見積もれば自分が損をすることになりますし、高すぎる数字を提示すれば採用が見送られることになります。
具体的な数字が分からなければ、インターネットで仕事別の平均給与額を確認して、だいたい〇〇€から〇〇€の間で考えている、と言えば大丈夫です。
面接終了後
最後に「何か質問は?」と聞かれ、何もなければ、面接後の流れについて(2次面接がある場合はその旨等々)説明があり、解散となります。
合否について翌日電話をしてくるところもあれば、1週間後、もしくは全然連絡してこないところもあります。
複数の会社に応募している場合はどうする?
複数の会社の採用が同時に進行している場合、どうすればいいでしょうか?
日本でもよくある状況ですね。A社とB社を受けていて本命はB社だがA社から先に採用の連絡がきた、という場合です。
B社に対して「少し考える時間が欲しい」と答え、返事を先延ばしにしてもらうことは全く問題ないです。採用担当者もそうした事態には慣れています。変な言い訳をするよりも、素直に「もう一つの面接先の結果を待っている」と話して返事の日にちを伸ばせるか交渉してみましょう。
採用を受け入れて契約書もしくは後で説明するPromesse d’embauche(採用確約書)にサインした時点で労使両方に雇用義務が生じます。その後で雇用者側はもちろんのこと、労働者側から契約を破棄する場合も、民事的責任を負うことになることもあるので、注意しましょう。
面接合格後から入社まで
面接に合格したら、勤務初日の日付を担当者に確認しておきましょう。
仕事を何もしていない状況であれば、即日仕事を始めることもできますが、例えば子供の学校等々で調整が必要な場合もあると思います。
面接時に「いつから勤務可能ですか?」と聞かれているはずなので、その日程を中心にして担当者と一緒に勤務初日を調整しましょう。
現在、仕事をしている場合…
今現在仕事をしている場合、つまり転職活動をしていた場合、現在の勤務先に対してどのような手続きを取ればいいのか見ていきましょう。
Promesse d’embaucheを新しい会社からもらう
勤務先に別れを告げる前に、新しい会社からPromesse d’embaucheをもらいましょう。
Promesse d’embaucheは採用確約書のことです。
書面には「〇月〇日から〇〇さんを〇〇の役職で採用することを確認します。労働時間は〇〇時間で給料は〇〇€です」といった趣旨のことが書かれています。
会社側はPromesse d’embaucheを採用候補者に送った時点で、雇用関係を結んだとみなされます。
その後、万一に会社側が採用を取り消した場合、理由なき解雇として会社側は解雇手当金を支払う義務が生じます。
Promesse d’embaucheへのサインは労働契約書にサインしたのと同じ効力をもちます。それは、応募者側も同様です。Promesse d’embaucheにサインして送り返した時点で、法的拘束力が双方に生じます。
Promesse d’embaucheにサインした後に、気がかわった、他に自分に合う職場を見つけた等の理由で破棄したい場合、まずは採用担当者に連絡しましょう。
内輪の話ですが、Promesse d’embaucheの後に応募者から辞退を申し出られるのは「あるある」です。会社側は大事にはせず、「それじゃご縁がなかったことで…」と応募者の辞退を穏便に受け入れる場合が多いです。ただし、会社側が労働裁判所に訴えれば、応募者側が損害賠償の責を負う可能性があることは頭に入れておきましょう。
退職届を出す
Promesse d’embaucheをもらったら、現在の仕事場の責任者に退職届を出します。
退職時の条件は雇用契約の形態によって変化します。
CDIの場合
CDIの場合、被雇用者が遵守すべき退職予告期間(Préavis)というものがあります。
期間の長さはConventionによって様々なので、自分の勤務先が所属するConventionで確認しましょう。
通常は1ヶ月の予告期間です。ポストによっては、3ヶ月のところもあります。
上司との関係が良好な場合、予告期間を遵守せずに、即時退職させてくれることもあるので、状況に応じて、相談してみましょう。
CDDの場合
CDDの場合、基本的に契約期間前に仕事を辞めることはできません。ただし、新しい職場の雇用形態がCDIの場合は、最長2週間の退職予告期間を遵守すれば辞めることができます。
CDDの詳しい内容については以下の記事を読んでください。
CDIの就職先が見つかった、という理由以外で仕事を辞める場合、契約の破棄(Rupture anticipé)を行います。これには、雇い主の同意が必要です。
まとめ
未経験の場合、フランス人でも外国人でも仕事を見つけるのは大変です。例えフランスで仕事の経験はなくても、日本でのアルバイトや仕事の内容をうまく結びつけて、応募先の会社にアピールすることが大切です。
私も何回も履歴書を送って、面接を受けて、時には(少し)侮蔑的なことを面接で聞かれて腹をたてたり、何度も練習したのに面接中にうまくフランス語が話せずに悔しい思いをしたり…。
就職活動がうまくいかなくて落ち込むこともあると思いますが、継続が大事です。
私が就職活動中に心の支えにしていたサミュエルベケットの有名な言葉をおいておきます。
” Déjà essayé. Déjà échoué. Peu importe. Essaie encore. Echoue encore. Echoue mieux “
フランスで就職活動をする皆さん、頑張ってください!