フランスにきて、慣れない環境で働き、時に辛い状況に耐えながらも「これはいいな~フランス万歳!」と思うシステムが、フランスの有給休暇ではないでしょうか。
特に日本で働いたことがある人は、フランスの有給休暇の取りやすさに驚いたことがあるのでは。
フランスでの有給休暇については、1年働いたら5週間、という原則を皆さんも知っていると思いますが、この記事では、Congés payésについての基本的なルールについてもう少し掘り下げていくことにします。
Congés Payés(有給休暇)の獲得
有給休暇は誰がもらえる?
Congés Payés (有給休暇)は契約形態(CDD, Intérim, CDI)、労働時間(フルタイム、パートタイム)、労働日数(週1日、週3日、週5日…)に関係なく、働く全ての人が獲得できます。
Congés payés はその会社に在籍している期間によって計算されるので、週2日勤務だとしても、月の初めから終わりまで在籍していればフルタイム勤務の人と同様の日数がもらえます。
CDDとCDIの違い
CDD、もしくはIntérimの場合、仕事の期間に関係なく必ずCPをもらうことができます。
1日だけの仕事でも、CPの獲得日数は日割り計算され、契約終了時に獲得したCPは金銭で補償されます。つまり、未消化のCPは雇用主によって金銭で買い取りされることになります。
6ヶ月以下の契約の場合、CPの買い取り金額は契約期間中に得たBrutの総額(Prime précarité=不安定雇用補償の金額も含める)×10%です。
一方、CDIの場合、CPの買い取りは原則禁止です。
CDIの社員は必ずCPを期限内に消化する必要があります。
唯一の例外が退職、解雇によって会社を離れる場合です。
この場合、未消化のCPは金銭で買い取られます。
CDI契約の場合、CPは最低でも1ヶ月働いた場合にのみ付与されます。例えばCDI契約で入社したが、試用期間中に3週目で試用期間を打ち切られた(もしくは従業員側から退職を願い出た)場合、CPは一切もらえず、よって金銭的に補償もされません。
Congés Payésの獲得期間
Conventionに定めがない限り、原則的には6月1日から翌年の5月31日までに獲得したCPを翌年の6月1日から使うことができます。
大抵は給料明細の一番下にCPのカウンターがあります。毎月CPの日数が貯蓄され(CP EN COURS)、翌年の6月1日になると、取得CP( CP ACQUIS )として使用することができます。
一方で、フランス労働法典では獲得したCPを翌月以降に使うことが許されているので、いわゆる「前借り」という形で有給取得ができます。その場合、CP EN COURSの列に取得日数が加算され、6月1日にCP ACQUISにそのまま使った分も含めて転換されます。
毎年6月になると、社員から「CPの日数がおかしい、数えなおしてくれ!」という問い合わせがきます。大抵は前年度、前々年度からCPの前借をして、それを覚えてないという場合です。前借りする場合はその日数をちゃんと把握しておき、6月1日になって「有給休暇は30日のはずなのに23日しか残ってないのはおかしい!」と言うことのないようにしましょう。
公共工事従事者、湾岸労働者、コンテナ業従事者、舞台関係会社の有給はCaisse de congés payésという独立した組織が管理し、獲得期間は4月1日から翌年の3月31日です。
例えば公共工事に従事する労働者は、月単位で労働現場とパトロンが変わります。そうすると、労働従事者はCPを常に買い取られ、有給休暇がとれません。
こうした事態を避けるために、上記のセクターで働く労働者のCPは会社ではなく、独立したCaisseが管理し、労働者が現場を移動しても有給をとれるようにしています。
Congés Payésの計算方法
2,5日それとも2,08日? CPの獲得日数
基本としては以下の通りです。CPは必ず日数で計算されます。
2,5日 x 12ヶ月 = 30日のCP(Jours ouvrablesの場合)
もしくは
2,08日 x 12ヶ月 = 25日のCP(Jours ouvrésの場合)
労働法典では、CPの計算はJours ouvrablesです。ただし、従業員の不利益にならない限りでJours ouvrésでの計算も認められています。
Jours ouvrablesとJours ouvrésの違い
Jours ouvrablesは日曜日と祝日を除いた月曜から土曜日の6日を、Jours ouvrésは土曜と日曜、祝日を除いた月曜から金曜日の5日で計算します。
例えば、Jours ouvrableで、月曜から日曜日まで休みを取った場合、消費したCPは6日です。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ⅹ |
対してJours ouvrésの場合、月曜から金曜日の5日を消費したことになります。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ⅹ | ⅹ |
つまるところは、Jours ouvrableの30日とJours ouvrésの25日の違いは、5週間のCPに土曜日を含めるか含めないかの違いです。計算上はどちらの方法をとっても同じことになります。
Jours ouvrableとJours ouvrésのどちらを選択するかは会社の自由です。
Jours ouvrableとJours ouvrés、結局同じ結果になるとすると、あえてJours ouvrésを選択するメリットは何でしょうか?
実は、正確にはJours ouvrésは祝日を除いた実働日を指します。例えば小売業で働く人の多くは土曜日が勤務日で、日曜と月曜日に休みます。その場合、Jours ouvrésは火曜日から土曜日の5日に設定されます。
例えば社員が土曜日に働いて日曜から1週間の有給をとると、Jours ouvrableでは
月、火、水、木、金、土の6日が消費日数としてカウントされます。
一方でJours ouvrésの場合、
火、水、木、金、土の5日がカウントされます。
結果としては同じことでも、Jours ouvrésのほうがより実情にあった計算方法で、社員の混乱も少ないと言えるでしょう。
小数点は切り上げの原則
CPの獲得日数は、必ず少数点以下を切り上げます。
例えば、ある社員が5月2日に入社したとします。
Jours ouvrableの場合は2,5日を、Jours ouvrésの場合は2,08日を5月31日の時点で獲得します。
6月1日に前年度のCPが獲得日数として確定し、当年度の有給として使えるようになるわけですが、その際、給料明細のCPカウンターには2,5日ではなく3日のCP獲得として表示されます。同様に、2,08日も3日のCPになります。
有給休暇の世界には0,5日、0,08日というのは存在しないので必ず小数点以下を切り上げるのです。
Congés Payésの取得
CPの初めと終わりの数え方
CPの数え方には、勤務予定日から始まり実際に仕事に戻る前日まで、というルールがあります。
例えば、週に3回、水曜、金曜、土曜に働く人がいたとします。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
休 | 休 | 勤 | 休 | 勤 | 勤 | 休 |
土曜日に勤務を終えたあと、日曜日から1週間の有給を取ったとします。
土 | 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 月 | 火 | 水 |
勤 | 休 | 休 | 休 | 休 | 休 | 休 | 休 | 休 | 休 | 休 | 勤 |
CPの数え方はJours ouvrableの場合以下のように、勤務予定日であった水曜日にはじまり実際に仕事に戻る前日の火曜日に終わります。
土 | 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 月 | 火 | 水 |
勤 | 休 | 休 | 休 | CP | CP | CP | CP | 休 | CP | CP | 勤 |
水曜、金曜、土曜だけ働いているから3日のCP消費と考えるのは間違いです。
CPをいつ取るかを決めるのは雇用主
雇用主は有給休暇の取得日を決めることができます。
例えば夏に2週間、冬に1週間、会社全体が年次休暇を取るとします。その場合、社員はその休業カレンダーに合わせて有給休暇をとるように強制されます。
また、会社機能の維持のために、雇用主側は従業員の有給を制限することができます。
フランスの場合だと、8月の初めの2週間、冬のクリスマス時期の2週間が一番有給申請が多い時期です。この時期に全ての部署の社員が有給を取ってしまうと、会社が回りません。
雇用主は各社員と調整を図り、会社が機能不全に陥らないために有給を調整することになります。
新入社員で年次休暇が強制される場合どうすればいいでしょうか?
例えば6月に入社した会社が8月の最初の2週間を年次休暇として閉めるとします。
6月に入社した場合、7月31日の時点で5日しか獲得CPがなく、2週間のバカンスを補うことはできません。
この場合、選択肢としては、
1,無給の休暇をとる
2,有給休暇の「借金」をする
3,就職前にPole emploi(職安)で失業保険を受け取っていた場合、Pole emploiに援助を求める
の3つの選択肢があります。
3番目の選択肢についてですが、Pole emploiでは就職支援の一環として、求職者が職を見つけた後もその活動が軌道にのるまで、様々な金銭的支援を行っています。今回のように失業保険を受け取った後の就職で一時的に無給に陥る場合、Pole emploiに問い合わせて支援を求めましょう。
未取得のCPの買い取りは禁止
6月1日から5月31日までに消費できなかったCPを会社側が金銭で買い取ることは禁止されています。また、基本的にCPの翌年度の繰り越しはできません。
使いきれなかったCPは基本的には消滅します。
ただし、Conventionの規定により、会社によっては使わなかったCP(通常5日が限度)を「貯金」しておくことができます。
貯金したCPは翌年以降に引き出して通常のCPと同様に使うことが可能です。
また、退職の際には貯金していたCPは会社側が買い取ります。つまり、金銭として補償されます。
CPの繰り越しが許可される場合もあります。不可抗力的にCPを使うことができなかった場合で、例えば長期の病気、産休、育児休暇中などがそれにあたります。
まとめ
Congés Payésについては他にも細々としたルールがあり、すべて紹介すると煩雑になるので機会があれば別にまとめたいと思います。
Congés Payésの計算はGPの仕事の中心なので私自身、何度も見返す主題なのですが、細かいルールと計算方法にフランス人の有給にかける情熱のようなものを感じて、勉強するたびに敬意を表したくなります。
先人のフランス人労働者たちが有給の取得とその環境を整えるために、長い歴史を通して戦ってきてくれたんだな、という感謝の気持ちが芽生えるほどに複雑で多様なCongés Payésの仕組みについて、次回はその補償のルールについて見ていきたいと思います。