病気で仕事を休むことになってしまった・・・。
ベットで横になってふと頭をよぎるのは
あー1週間も休みかぁ…今月のお給料へっちゃうなぁ…
しかし、もしあなたが条件を満たしていれば、病気になった月でも収入は減ることはありません。
病気の時に余計な心配をせずにゆっくりと療養するためにも、ここではArrêt maladieの際に受けられる補償の仕組みについて見ていきましょう。
病気になったら誰が給料を補償してくれるのか?
日本では傷病手当金の制度があり、健康保険から手当が支払われます。フランスでは病欠時における給料補償は2つのレベルで行われます
- Sécurité sociale(公的健康保険)
- Code du travail(労働法典) もしくはConventions collectives(団体協約)
一般にSécu=セキュとよばれる公的健康保険については知っている人も多いと思います。詳しい計算方法については別の機会に解説しますが、セキュは病気の場合、給料のおよそ50%、労災(通勤時も含める)の場合は最初の28日に60%その後80%(実質79%)が補償されます。
(2024年7月追記 ; IJSSの詳しい計算方法についての記事です)
では残りは誰が補償してくれるのでしょうか?それは雇用主です。
条件を満たした場合、セキュではカバーしきれない不足分を雇用主が補填してくれるのです。フランス語ではMaintient de salaire または Complément de salaireと呼ばれるこの制度について以下で詳しくみていきましょう。
Conventions collectives(団体協約)が定める傷病手当金
雇用主からの給料補償にはいくつかの条件があります。自分がその対象かどうか、何%補償されるのか、そして期間はいつまでか、それを知るためにはまず自身の職場がどのConvention collectiveに付随しているのかを知る必要があります。
Convention collective とは各業界の労働組合と使用者団体の間で締結される、給与体系、労働条件、雇用条件、福利厚生を定めた協約のことです。業務内容によって適用されるConvention collective は決められいます。例えばパティスリーにはパティスリーの全国団体協約が、魚屋には魚屋の全国団体協約が適用されます(一方でスーパー内のパティスリーや魚屋の場合は小売業団体協約に属することになります)。
自分がどのConvention collectiveに属しているかを知るためには住所や名前等の個人情報がかかれた給料明細上段を確認してください。
参考書ほどの厚さになるものもあり、全部を読んで理解することは大変ですが、一度目を通すことをおすすめします。
なお、Convention collectiveは以下のサイトでも検索、閲覧することができます。
https://www.legifrance.gouv.fr/liste/idcc?facetteTexteBase
Convention Collectiveが定める補償
一例として、眼鏡製造、販売業のConvention collectiveを見てみましょう。
眼鏡製造業のConvention collectiveには病欠時の給料の補償について以下のように規定されています。
– après 1 an de présence :(勤務年数1年以上)
–– pendant 1 mois : 100 % de leur rémunération ;
–– pendant 1 demi-mois : 75 % de leur rémunération ;
–– pendant 1 demi-mois : 66 % de leur rémunération ;
– après 5 ans de présence :(勤務年数5年以上)
–– pendant 2 mois : 100 % de leur rémunération ;
–– pendant les 20 jours suivants : 75 % de leur rémunération ;
この後ずらっーと10年、20年…と勤続年数33年までつづきます。なお、これは従業員(Employés)の場合で管理職(Cadre)はまた別です。
同様に、通信販売業のConvention collectiveを見てみましょう。
– après 6 mois d’ancienneté(勤務年数6カ月以上) : 1 mois à 100 % de date à date ;
– après 1 an d’ancienneté (勤務年数1年以上): 2 mois à 100 % de date à date ;
– après 5 ans d’ancienneté (勤務年数5年以上): 3 mois à 100 % de date à date ;
いかがでしょうか。Conventionによって随分と内容が違いますね。
通信販売業では6カ月の勤務実績があればセキュからの払戻金を合わせた100%の給料を補償されますが、眼鏡製造業では1年の勤務年数が必要です。また、眼鏡製造業では1年の勤務年数では合計3ヶ月の補償が受けられますが、支給額の割合は1ヶ月を過ぎると少なくなります。対して通信販売業では、2ヶ月を限度に100%の補償がうけられます。しかし、眼鏡製造業のほうは勤務年数を細かくわけ、長く働けばより有利な条件になっていきます。
また、一般的に管理職はより有利な補償が受けられる場合が多いです。
このように、補償の内容はConventionによって千差万別ですが、一方で共通のルールもあります。Code du travail(労働法典)を下回ってはならない、というルールです。
Code du travailが定める補償
Code du travailでは補償金の支給について以下のように定めています。
Code du travailの基準は、管理職等の役職に関わりなく一律に適用されます。他にも7日の待期期間が必要などの条件があるのですが、それは追々見ていくことにしましょう。
Conventionは各業界団体で締結された労働全般に関わる協約であるため、その内容は業界の特色を色濃く反映したものになっています。
例えば、配送業者のConventionにおける病欠、労災時の給料補償の内容はそのリスクを考慮してより従業員にとって有利な内容になっています。
私もすべてのConventionに目を通したことはないですが(そもそも650以上もの協約が存在しているので無理ですが…)、大体どこの業界でもCode du Travailよりも有利な内容をConbvention collectiveでは定めています。
病欠から給料補償を受け取るまでの流れ
実際に、病気になってから給料補償を受け取るまでの流れを見ていきましょう。大まかな流れとしては以下のようになります。
- かかりつけ医に病欠の証明書をだしてもらう
- RHもしくは雇用主に病欠の連絡をする
- セキュから手当金が支払われる(条件あり)
- 雇用主から給料補償を受ける(条件あり)
- 症状が長引いた場合、医者にProlongationを出してもらう(補償期間が過ぎるまで1から4を繰り返す)
①かかりつけ医に病欠の証明書をだしてもらう
病欠の際、かかりつけ医がArrêt maladie (病欠証明書)を出します。
Arrêt maladieにはInitialとProlongationがあり、Initialは初めての診察の時に、その後同じ症状で病欠する場合にProlongation(延長)が出されます。
証明書は3枚綴りの用紙で渡され、1番目と2番目の用紙は居住地のCPAM(健康保険事務所)に送り、3枚目は雇用主に送付します。
最近では電子化が進み、多くの診療所では医師が直接Arrêt maladieを健康保険事務所のネットサービスに送る場合が多いですが、いまだに手書きの用紙のところもあります。
その場合、患者自身がCPAMに用紙を送りますが、配送のミス以上に多いのがCPAM内での書類喪失です。
RHもしくは雇用主から再度提出を求められた際は慌てずに、診療所で再度Arrêt maladieを発行してもらいましょう。
意外と多いのが、医者の記入ミスです。日付のミス(特に年を越す場合)、サイン忘れ等々、いわゆるうっかりミスですが、CPAMは少しでも病欠証明書に不備があると手当金の支払いを拒否します。数週間してから診療所に連絡して再発行するのも面倒なので、病欠証明書を受け取ったらざっと目を通して間違いがないか確認しましょう。
②RHもしくは雇用主に病欠の連絡をする
Arrêt maladie を受けっとってまず最初にすることは、48時間以内にメールもしくは電話で雇用主に病欠の連絡をすることです。Convention collectiveによっては3日以内等定めているところもありますが、早めに連絡するにこしたことはありません。
その際、郵送での書類紛失を避けるために、病欠証明書を写真に撮ってメール添付で送ることをおすすめします。
雇用主に連絡をしていても、病欠証明書がなければ無断欠席扱いになります。
48時間を超えた連絡、病欠証明書の不在は解雇理由の一つにもなるので、注意しましょう。
③セキュから手当金が支払われる(条件あり)
雇用主側はArrêt maladieを受け取ると、健康保険事務所に対して病欠者の過去3ヶ月の給料証明書(Attestation Salaire)を作成、送付します。
条件
セキュから手当金をうけとるためには、いくつかの条件があります。
- 病欠時から遡って3ヶ月もしくは90日間の間に150時間働いていること
- もしくは、病欠時から遡った6か月の間にSMIC(最低時給)×1015以上の給与に対する社会保険料を支払っていること
また、連続しないCDD(有期雇用)の繰り返しもしくは季節労働者の場合、
- 病欠時から遡って12ヶ月もしくは365日の間に600時間働いていること
- もしくは上記の期間にSMIC(最低時給)×2030以上の給与に対する社会保険料を支払っていること
支払い方法
CPAMから手当金を受け取る方法は2つあります
- CPAMから自分の銀行口座にふりこまれる
- 会社が手当金を肩代わりする代わりにセキュからの手当金を会社が受け取る=Subrogation
Subrogationとは、会社がセキュからの手当金を肩代わりしてくれるシステムのことです。
CPAMから手当金が支払われるまで平均で1、2週間かかります。しかし、書類上に不備があったり、とくに労災の場合は審査が必要となるので時に病欠日から1カ月以上も支払いが滞ることも珍しくありません。1週間以内の病欠ならまだしも、1カ月以上にわたる場合、支払いの遅延は従業員にとって死活問題となります。
Subrogationのシステムは、雇用主からの給料補償がある場合に限り、雇用主がCPAMからの支払いを肩代わりしてくれるものです。そのため、従業員は病欠した月でもCPAM分の手当+雇用主側の給料補償を受け取れ、給料へのダメージを軽減できます。
支払い期間
セキュには待期期間があります。
病欠の場合、待期期間は3日です。(ただしAlsace-Moselle地域を除く)
つまりセキュからの手当金は4日目から支払われます。
支払期間は4日目から数えて最長で3年です。(支払い請求期間は過去2年に遡って可能です)
なおIJSS(Indemnités Journalières de Sécurité Sociale=1日あたりのセキュからの手当金)は勤務日かどうかに関係なく、土日も含めたカレンダー通りに支払われます。
例えば8月1日(火)から8月13日(日曜日)まで病欠した場合、3日の待期期間の後、4日から13日の10日間分が支払われます。
Alsace-Moselle(アルザスモゼール)地域の健康保険は他の地域とは異なる特別制度が実施されています。
アルザスモゼール地域は1871年から1918年の間ドイツの支配下に置かれていました。フランスに返還後もこの地域の住民はフランスに比べて有利な条件のドイツの社会保障システムを維持し、第二次世界大戦後、フランスの健康保険制度が本格的にスタートした際にはその制度下に置かれることに反対しました。
こうした歴史的な事情を背景に、アルザスモゼール地域で働く人の傷病手当金は支払い条件において他の地域と比べてより有利なものになっています。3日の待期期間はなく、当日から100%の補償を受けられるのです。なお、50%はセキュが支払いますが、残りの50%は雇用主が負担します。
④雇用主から給料補償を受ける(条件あり)
CPAMから手当金が支払われると、雇用主がConvention collective(団体協約)に従い残りの分を補償します。
大事なことがひとつ。雇用主からの給料補償はCPAMからの支払いを補完するものであるということです。もし、様々な理由でセキュが支払いを拒否した場合、もしくは従業員の怠慢でセキュからの手当がもらえなかった場合、雇用主に給料補償の義務はありません。
条件
上述したように、給料補償が受けられるかどうかは各Convention collectiveによって違いますが、病欠の場合は6ヵ月から1年の勤務実績を求める場合が多いです。
なお、勤務形態は不問です。CDI、CDD、Apprenti(研修)、フルタイム、パートタイムでも条件の勤務年数さえクリアすれば給料補償を受けられます。
Code du travail(労働法典)では以下のような条件があります。
- 病欠の初日を起点に1年間の勤務実績があること
- 雇用主に48時間以内に病欠証明書を提出した
- セキュから手当金の支払いを受けていること
- フランス国内もしくはヨーロッパ経済圏内で診療をうけた
- 在宅労働者、季節労働者, 不定期に働く労働者(intermittent)は給料補償の対象から除く
支払い方法
雇用主から給料補償を受ける際、2つの方法があります。
- セキュからの手当金の支払い証明書を雇用主に提出し、雇用主はその金額をもとに補償金を計算、従業員の給料に追加する。
- Subrogation(肩代わり)のシステムを採用している場合、雇用主はセキュからの手当金を見積り、手当金+補償金が病欠の月に支払われる。後日、雇用主は従業員の代わりにセキュから直接手当を受け取るので、証明書を提出する必要はない。
会社がSubrogationのシステムを採用し、100%の補償を受けられる場合、その月の給料明細には
-休んだ日の日給もしくは時給
+同額の補償
で±0になります。
給料補償が受けられるにも関わらずセキュからの支払い証明書を提出しない人が意外と多くいます。単に給料補償の制度について知らなかった、自分が勤務年数に達していないという思い込みです。上述のように、補償条件に勤務形態は含まれません。また、CDDからCDI契約に移った場合、CDDからの日数を起点とします。
自分が給料補償を受けられるかどうか、病気になった際には雇い主もしくはRHに聞いてみましょう。
なお、2年を超えた後の申請は支払いを拒否される可能性もあるので注意しましょう。
セキュからの支払い証明書は自宅宛てに郵送もしくは以下のサイトで自身のアカウントからダウンロードできます。
https://www.ameli.fr/cote-d-or/assure
支払期間
支払い期間もConventionにより様々です。一般的には60日から180日ですが、もっと有利な内容を提供している協約もあります。
Conventionによっては待期期間を設けず、病欠の初日から給料を補償すると定めているものもあります。その場合、セキュの待期期間3日は変わらないので、セキュの分は雇い主が負担します。
一方で例えば7日の待期期間の場合、4日間はセキュからの支払いのみになり、雇い主は8日目から補償を開始します。
なお、雇用主補償の支払い期間は通算化されるので注意しましょう。
各Conventionには給料補償の期間と同時に権利回復の条件も添えられています。「病欠の日から起算して過去1年の合計」もしくは「権利を回復するためには6カ月間連続して勤労していること」といったような文言です。
例えば1年以上5年以下の勤務年数の場合30日間100%の給料補償が待期期間なしで受けられるとします。病欠で15日間休み、翌月も15日間休みました。合計30日間、雇い主から給料補償を受けたとすると、あなたは権利を使い果たしたことになります。また新たに給料補償を受けるためには、Conventionの条件を満たす必要があります。病欠ごとの起算ではないので気を付けましょう。
⑤症状が長引いた場合、医者にProlongationを出してもらう
数日経過しても体調が思わしくない場合、病欠の期間を延長してもらうために再度、診療所を訪れます。その際、最初の病欠証明書を出してもらったのと同じ医者にInitial(初診)ではなくProlongation(延長)をもらってきましょう。
前の証明書にある病欠終了日の前にProlongationの証明書をもらってくることが望ましいですが、休日などを挟むと診療所の予約が取れない場合もあります。以下はセキュが容認している例です。
- 土日を含む2日
- 土日+祝日を挟んだ3日
- 祝日+平日の2日
- 祝日もしくは平日の1日
- 仕事を再開してから48時間以内に再度同じ症状で病欠になった場合
それ以外は、新たに3日の待期期間が課されるので注意しましょう。
COVIDの特例措置(2023年1月31日終了)
2020年3月以降、コロナウイルスの拡大を受け、フランス政府は陽性者に対して最低7日間の自宅謹慎を義務付けました。
仕事を強制的に休まざるを得なくなった陽性者に対して、セキュは待期期間なしの傷病手当金の支払いを行い、雇用主は勤務年数に関係なく、Code du travail(労働法典)が定める補償金の支給をセキュと同様に待期期間なしで行う特例措置が設けられました。
この特例措置は2023年1月31日付で終了しています。
まとめ
今回は病欠になった際の給料補償の仕組みについて見てきました。
もう一度繰り返しますが、雇用主からの給料補償の条件はConventionにより様々です。
中規模以上の会社でRHがいる場合は、直接問い合わせれば済むことですが、雇用主=RH=会計のような小規模な事務所、店舗の場合、雇用主が不利益を被らないようにあえて嘘の情報を伝えるかもしれません。
確かに理解するのに少し時間はかかりますが、インターネットで色々と調べることもできるので、自分の勤務先のConventionを見たことがない人はぜひ一瞥してみてください。
以下のフランス政府のサイトでは、関心の高いトピックスを各Conventionごとにまとめています。非常に分かりやすくまとまっているので、自分の給料補償について知りたい方はぜひ参考にしてください。https://code.travail.gouv.fr/convention-collective
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