会社への入社は一本道ですが、会社を去る際には、その道は様々な方向に枝分かれしています。
新しい未来に向けて、自らの意思での辞職。
定年を迎えて、定年退職。
そして、解雇。
この記事では、会社を去る際のモチーフとその内容について整理してみたいとおもいます。
人生いろいろ、退職理由もいろいろ
日常的に使われる、契約終了時のモチーフは以下の通りです。(カテゴリー毎に色分けしました)
Fin de période d’essai à l’initiative du salarié / 従業員側の申し出による試用期間の終了
Fin de période d’essai à l’initiative de l’employeur / 雇用主側の申し出による試用期間の終了
Fin de contrat à durée déterminée / 期限付き雇用契約( CDD )の終了
Départ volontaire à la retraite / 定年退職
Mise à la retraite / 雇用主側からの定年退職推奨
Rupture conventionnelle du contrat CDI / 労使双方の合意による契約の終了
Démission / 辞職
Licenciement / 解雇
退職の理由が違うと、退職手当金も違う
退職理由の違いは、退職時に支払われる手当金の有無と金額に大きく影響します。
モチーフ | 手当金の有無 | 失業保険の有無 |
Fin de période d’essai à l’initiative du salarié | X | △ |
Fin de période d’essai à l’initiative de l’employeur | X | ○ |
Fin de contrat à durée déterminée | X | ○ |
Départ volontaire à la retraite | ○ | X |
Mise à la retraite | ○ | X |
Rupture conventionnelle du contrat CDI | ○ | ○ |
Démission | X | △ |
Licenciement | △ | ○ |
△は、場合によっては支給される場合もあるという意味です。
例えばFin de période d’essai à l’initiative du salariéもDémissionも従業員側の意思による労働契約の終了となります。よって、通常は失業保険は支給されません。ただし、いくつかの特殊な条件下においては、失業保険が支給されることもあります。
Fin de période d’essai / 試用期間中の退職
Période d’essai(試用期間)の間、労使双方はお互いに理由を述べることなく、自由に契約を打ち切ることがきます。試用期間中に契約が終了した場合、Fin de période d’essai となります。
契約終了を申し出たのが従業員側か雇用主側かで、à l’initiative du salarié とà l’initiative de l’employeurに分かれます。
試用期間中に契約が終了した場合、雇用主側に契約終了に伴う手当金を支払う義務が生じません。
試用期間の終了は、雇用主側が申し出た場合には、失業保険給付の対象となりますが、従業員側の申し出による場合は、給付対象外です。ただし、特例もあります。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
Fin de contrat à durée déterminée / CDD契約の終了
CDD(期限に定めのある労働契約)がその最終日を迎えると、Fin de contrat durée déterminéeとなり、CDD契約を満了したことになります。
CDD契約終了時には、退職金の支払いはありませんが、Prime de précarité(不安定雇用手当)を受け取ることができます。
これは、契約期間中に受け取った合計給料(Salaire de brut)に最終月の給料を足した10%相当の金額です。
また、契約終了後は失業保険の給付を受けることができます。
CDD契約を契約終了日を待たずに契約を中断する場合は、Rupture du contrat(契約の中断)です。Prime de précaritéが支給されないのはもちろんのこと、失業保険の給付を受けることもできないので、注意しましょう。
A la Retraite / 定年退職
定年退職には、規定の年齢に達した際に、従業員側から申し出るDépart volontaire à la retraiteと雇用主側から推奨されるMise à la retraiteの二つがあります。
Départ volontaire à la retraite / 自らの意思による定年退職
年金を受給できる年齢に達した従業員は、自らの意思で定年退職を申し出ることができます。
体裁としては、従業員側の意思による労働契約の終了なので、辞職する際と同様に、退職の手紙を雇用主に提出し、Préavis(事前通知)の期間を遵守する必要があります。
ただし、辞職とは違い、定年を理由とする離職には退職金が支給されます。
退職金の金額は、各業界のConvention collectivenと労働法典、2つの方法で計算し、より金額が高いほうが採用されます。いずれの場合も、日本のように高額な退職金になることは滅多にないので、要注意です。
定年退職に対して支給されるお金は、正確には、退職金とは言わずに、Indémnité de départ à la retraiteと呼びます。解雇時におけるIndemnité de licenciementと同様に、手当金もしくはボーナスという位置づけです。退職金は日本独自の制度で、フランスのそれとは金額の面で全く別のものです。
例えば、労働法典では、退職金の支給を、勤務年数が10年以上、14年以下の場合、参考給料の1/2と決めています。つまり、勤務年数が13年で参考給料が2500€の場合、支給される退職金は1250€です。
一般的に高待遇で知られる銀行のConventionでさえ、支払われる退職金は同じ勤務年数の場合は参考給料の2/3で、決して多いとは言えません。
Mise à la retraite / 雇用主側からの定年退職勧奨
定年退職は、従業員側の意思によるもので、雇用主側から強制することはできません。
従業員が望めば、70歳まで働くことができます。
一方で、67歳を過ぎてから、雇用主側は従業員に定年退職の勧奨を行うことができます。
従業員が勧奨を受け入れれば、Mise à retraite、定年退職の手続きに入ります。
拒否した場合は、翌年度を待って、再度、定年退職の勧めを行います。
従業員が70歳に達した際には、雇用主側は従業員側の返事の如何を問わず、強制的に定年退職の手続きを行うことができます。
同じRetraiteでも違う退職金
Départ volontaire à la retraiteが従業員側の意思による労働契約の終了であるのに対して、Mise à la retraiteは雇用主側の意思による労働契約の終了です。よって、同じ退職金でも、Mise à la retraiteは解雇手当金と同じ計算方法となり、もらえる金額は後者のほうがずっと高額になります。
上記のDépart volontaire à la retraiteの場合、勤務年数が13年で参考給料が2500€の場合、支給される退職金は1250 €と計算しました。
同じ人がMise à la retraiteで退職する場合、その退職金は、10年までは1年ごとに1/4の参考給料、10年以降は1年ごとに1/3となります。つまり、
( 2500 x 1/4 ) x 10 + ( 2500 x 1/3 ) x 3 = 8750 €
全然違いますね。
とはいっても、実際のところMise à la retraiteを待って辞める人は少ないです。
やはり、67歳を過ぎて毎日働き続けるのは大変なので…。ほとんどの人は年金受給開始年齢に達したら、自らの意思で定年退職の道を選びます。
Rupture conventionnelle du contrat CDI / 労使双方の合意による契約の終了
Rupture conventionnelle du contrat CDIは従業員の意思による辞職とも、雇用主側からの解雇手続きとも違い、双方の話し合いの結果、労働契約を終了することに合意した場合の退職の形です。
従業員側のメリットは、辞職するのとは違い、解雇手当金相当のお金を貰うことができることと、失業保険を受給できることです。
雇用主側のメリットは、解雇の複雑なプロセスを踏まずに、穏便かつ円満に社員に退職してもらえることです。
勘違いしがちですが、従業員側から「○○という理由で会社を辞めたいです」ともちかけ、「そうですか、了承しました」というやり取りは、Rupture conventionnelleではありません。
Rupture conventionnelleの正式な手続きというものはないですが、従業員側から提案する場合には、Rupture conventionnelleという形で職場を去りたいという意思を明示し、雇用主側から了承をもらう必要があります。
従業員側からRupture conventionnelleを提案して受け入れられる状況とは、例えば上司との関係が悪化している、ポストの削減、統合で行き場がない、仕事を休みがちで勤務態度が他の従業員のモチベーションに影響を与える等々、従業員の存在が会社側にとって重荷になっている場合です。一方で、ポジティブな理由も存在します。従業員のそれまでの働きを評価して、会社側が辞職ではなくあえてRupture conventionnelleにしてくれる場合もあります。
また、従業員側の家庭事情、心身的な状況に配慮したうえでのRupture conventionnelleという選択もあります。全ては上司及び雇用主との関係次第です。
Rupture conventionnelleは双方がその内容を了承した上で行われるので、従業員側は退職後にある事由をもって会社を訴えることは難しいです。
Démission / 辞職
Démissionとは自らの意思で仕事を辞めることです。
その選択上、退職手当金の支給はなく、基本的には失業給付金の受給対象にもなりません。ただし、辞職の理由が配偶者の他の土地への転勤に伴うものであったり、心身保護(家庭内暴力からの逃避、ストーカー行為から身を守るため)を目的としたものである場合は、失業給付金を貰うことができます。
Démissionの方法等については詳しい記事を以前書いたので、参照にしてください。
Licenciement / 解雇
一言で解雇といっても、解雇の理由によってその内容は様々です。
大枠は以下の3つです。
- Licenciement pour motif économique / 経済的理由による解雇
- Licenciement pour motif personnel / 従業員の過失による解雇
- Licenciement pour inaptitude / 健康上の不適応による解雇
Licenciement pour motif économique / 経済的理由による解雇
会社の経済的事情、会社の閉鎖等の場合に人員整理を目的に行われるのが、Licenciement pour motif économiqueです。
会社の規模によってその手続きも複雑になります。一般的に、面接、他のポストへの提案、解雇通知、予告期間を経て解雇となります。
退職時には、在籍年数に応じた解雇手当金が支払われます。
Licenciement pour motif personnel / 従業員の過失による解雇
Licenciement pour motif personnelは従業員側の過失に基づく解雇です。さらに以下に分類されます。
- Licenciement pour faute simple / 単純な過失による解雇
- Licenciement pour faut grave / 重大な過失を理由にした解雇
- Licenciement pour faut lourd / 重大かつ深刻な過失を理由にした解雇
Licenciement pour faute simple / 単純な過失による解雇
遅刻、無断欠勤、怠慢な勤務態度、就業規則の無視等、雇い主側から何度かの警告が行われたにも関わらず、改善が見られない場合、Licenciment pour faute simpleが行われます。
従業員の過失に基づく解雇の中では、一番軽度のものです。よって、解雇時には勤務年数に応じた解雇手当が支払われ、失業手当の受給資格もあります。
Licenciement pour faut grave / 重大な過失を理由にした解雇
従業員が勤務上の義務を怠っている場合や過失の内容が従業員の会社への在籍を容認できないほどに重大である場合、その過失を理由に解雇が行われます。
例えば、勤務時間内に酩酊状態である、会社内での盗難行動、同僚、上司への脅迫および類似行動等がそれにあたります。
即時解雇となり、解雇手当金はでません。ただし、失業手当を受給することができます。
Licenciement pour faut lourd / 重大かつ深刻な過失を理由にした解雇
過失が重大で、雇用主側に損害を与える意図があった場合、Licencimentの中では一番重い、Licenciment pour faut lourdになります。
Faut graveは従業員本人の勤務態度に起因する解雇でしたが、Faut lourdの場合はさらに悪意を持って、会社側に損害を与えようとする行為に起因します。
例えば会社の秘密情報を持ち出し、競合他社へと売り渡したり、雇用主およびその家族が命の危険を感じるほどの脅迫行動を行うこと等です。
Faut graveの場合、即時解雇となり、退職手当金はなく、未消化の有給休暇の清算も行われず、失業保険の受給を受けることもできません。
Licenciement pour inaptitude / 健康上の不適応による解雇
Licenciement pour inaptitudeは従業員の健康状態を理由にした解雇です。
長期の病気療養の後、Médecine du travail(産業医)の判断によってInaptitude(不適格)の判断が出された場合、雇用主側は新しいポストを従業員側に提案する義務があります。
提案が受け入れられなかった場合、もしくは代わりになるポストがなかった場合、さらには産業医の判断で全てのポストにおいて就業できる状態ではないと判断された場合、Licenciment pour inaptitudeが行われます。
Licenciement pour inaptitudeはInaptitudeの原因が病気に起因するものが、労災および職業上の疾病に起因するかで解雇手当の金額および解雇通知手当の有無が変わります。後者のほうが、解雇手当金はより高く計算されます。
まとめ
仕事を辞める、辞めさせられる、辞めたいけど辞められない…仕事を始める時は意気揚々と会社に入るわけですが、会社を出る時には様々な選択肢があることをお判りいただけたかと思います。
会社側からそのアクションを起こす場合、手続きは大変に複雑で、いくつもの遵守すべきステップが存在します。特に、Licenciementは対象となる従業員の年齢や、salariés protégés(労働組合やComité d’entrepriseのメンバー)かどうかによってもその内容は変わってきます。
いくつかのモチーフではすでに詳しく解説した記事がありますが、他のモチーフについても追々と記事をアップしていきたいと思います。