フランスでは、残業の条件や、割増率、残業手当の計算方法はフルタイム労働(週35時間)かパートタイム労働(週35時間以下)によって違います。
この記事では、フルタイム労働の場合の残業手当の計算方法について見ていきます。
パートタイム労働の場合の残業代の計算については、以下の記事で詳しく解説しています。
フランスの法定労働時間とその規制
2024年現在、フランスの法定労働時間は週35時間、月に151,67時間、年間1607時間です。
18歳以上の労働者を雇う場合、例外を除いて、労働時間は以下のように規制されています。
1日の労働時間 … 最長10時間
退勤から出勤までの休息時間 … 最低11時間
1週間の労働時間 … 最長48時間
週の平均労働時間 … 平均44時間(連続した12週間の平均労働時間が44時間を超えてはならない)
週の休み … 24時間以上(最低でも週)
基本的に、年間労働時間制を採用している場合を除いて、残業代は毎月清算されます。
年間労働時間制を採用している場合、convention collective等に定めがない限り、年間220時間を超えた超過勤務を行うことはできません。
残業代は、その年の1月1日から12月31日の1年が終了してから支払われます。
法定労働時間の週35時間勤務(契約によってはそれ以上)働いている人の超過時間をHeures supplémentairesと呼び、35時間以下のパートタイムで働いている人の場合Heures complémentairesと呼びます。
残業するかしないか、決めるのは誰?
残業するかしないか、決めるのは雇用主もしくは会社の上司です。
基本的に、フルタイムで働く人は雇用主からの残業要請を断ることはできません。(ただし、直前になって要請された場合等は除く)
また、従業員の側が雇用主もしくは上司の了解を得ずに残業をすることはできません。(ただし、予め業務過多を報告していたのに、必要な措置を取られず、残業せざるを得ない状況に従業員側が置かれていた場合は除く)
Heures supplémentairesの計算方法
法定労働時間を超えた労働に対しては残業代が支払われます。
残業代は、代休で相殺される場合を除いて、金銭で支払われます。残業代をPrime(賞与)として予め毎月の給料に組みいれることはできません。
Convention collectiveもしくは企業内協定での定めがない限り、残業代は以下の通りに計算されます。
最初の8時間(36時間から43時時間) … 25%割増
9時間目以降(44時間以降) … 50%割増
例えば、2024年6月現在のSMIC(最低賃金)は時給で11,65 €、月給にして1766,92 €です(Brut)。
ある週に合計10時間の残業を行った場合、支払われるのは、
11,65€ x 125% = 14,56 € x 8h = 116,50 €
11,65€ x 150% = 17,47 € x 2h = 34,95 €
となり、合計で151,45€が残業代として支払われます。
Heures supplémentairesの計算に含まれるもの、含まれないもの
皆さんの給料は基本給だけでなく、毎月の手当だったり、ボーナスを含む月があったりと毎月変動しています。どの要素がHeures supplémentairesの計算の土台に含まれるか、実は細かく分かれています。
Heures supplémentairesの土台に含まれるもの
- 基本給
- 従業員の成果に対する報酬(例えばPrime de productivité, prime d’objectifなど)
- 役職に対する手当(Prime de froid, Prime de dangerなど)
- 現物支給(Les avantages en nature)
Heures supplémentairesの土台に含まれないもの
- 勤労手当
- 全社員に対して支給されるボーナス(13ème mois, Prime collective d’objectifなど)
- 休暇手当等、年次のボーナス
- 払い戻しの性格を有する手当(例えばPrime de paniers)
実際の計算例
実際に給料明細を見てみましょう。例えば基本給が2000€で、危険物取扱手当を毎月97€受け取っている人がいます。同じ月に社員全員に特別手当200€配られました。
その月の残業時間が3時間だとすると、このHeures supplémentairesの計算のベースとなるのは、基本給+危険物取扱手当のみです。
(2000 + 97) / 151,67 x 125% = 17,28 €
17,28 € x 3 = 51,85 €となります。Prime exceptionnelleは計算に含めません。
残業時間の数え方
Heures supplémentaireの場合、残業時間は月ではなく週単位で数えます。
6月の1週目に10時間残業したら、8時間に25%の割増が、2時間に50%の割増が付きます。
一方で25%や50%の割増(Majoration)が付かない場合もあります。つまり、時給分の残業代のみが支払われるということです。どういうことか、見ていきましょう。
労働時間とみなすかどうか
Convention collective等でより有利な取り決めがある場合を除き、実際に労働していなくても「労働した」とみなされるのは以下の場合です。
- 研修(Formation professionnelle)
- 従業員代表委員(CSE)としての活動
- 結婚、出産、葬式の際に付与される特別休暇
- 病院、診療所等への診察が義務の場合(労働医との面談、妊娠時の定期健診のための仕事の中断等)
つまり、それ以外、有給休暇や病気で会社を休む場合は「労働をした」とはみなされません。
その結果、例えばある週に1日有給休暇を取得し、その翌日に3時間の残業をしたとしても、その週の実際の労働時間が35時間を超えないので、この3時間の残業代に割増手当は付きません。
先ほどの給料明細を例にとると、以下のようになります。Heures supplémentaires sans majoration(割増なしの残業代)というタイトルで時給は(2000 + 97) / 151,67=13,83 €です。
残業時間に対する収入は分担金と所得税の対象外
2024年現在、残業代はCotisations(税金、分担金)とImpot sur le revenu(所得税)の対象外となっています。ただし、25%もしくは50%の割増手当の対象となる残業代に限ります。上述した、Heures supplémentaires sans majoration(割増なしの残業代)は対象外なので、注意しましょう。
Cotisations(税金、分担金)の控除
Cotisationsからの控除率は最大で11,31%です。
給料のBrutがLe plafond de la Sécurité Sociale(年に46 368 €月に3 864 € )を超え、Cotisationsの上乗せ(Tranche2)がかかる場合でも、控除率の最大は変わりません。
Le plafond de la Sécurité SocialeやTranche2について知りたい方は、以下の記事を参照してください。
実際に給料明細上での動きを確認してみましょう。
3時間の残業代に125%の割増がついた場合です。
Brutの総額は2348,85€です。そのうち、残業代に当たる51,85€がCotisationsの控除対象となります。
Cotisationsの欄の途中か最後に、Réduction les heures supplémentairesの一文があるはずです。
一方、残業代はCSG/CRDSの控除対象とはなりません。
よって、Heures supplémentairesがある月は、CSG/CRDSのあとにもう一行、CSG/CRDS sur heures sup. non déductibleが続きます。
CSG/CRDSは2024年現在、超高収入の場合を除いて、1,75%の割引が給料所得に対して行われます。よって、Heures supplémentairesの場合も同様に、51,85 x 98,25% = 50,94がCSG/CRDSの計算ベースとなります。
Impôt sur le revenu(所得税)からの控除
割増手当ありの残業代は年間7,500€を上限に所得税から控除されます。
この金額を超えた残業代は、所得税の対象となります。
通常、5月から6月にかけて行われる所得税の申告用紙に、控除分が記載されているので、確認してみましょう。
例えば、2023年度の残業代の合計が9000€(Net)だった場合、7500€が所得税の控除対象です。残りの9000 – 7500 = 1500€は所得税のかかる収入となります。
まとめ
フルタイム労働の場合の残業代の計算方法についてみてきました。
残業したのに、Majoration(割増し)手当がついていない、というのはよくあることで、私も社員から「割増し手当がついてないんですけど…」と問い合わせを受けることがあります。上述のように同じ週に有給休暇や病欠で休んでいた場合は、Majorationが付かない残業ということになり、所得税控除もないので、注意しましょう。
一方で、会社によっては残業の支払いを一切認めていないところもあります。その場合、超過労働時間分はRepos compensateur(代休)として取得できます。
25%もしくは50%の割増手当が付く場合、1時間15分もしくは1時間30分として換算されます。
また、冒頭で書いたように、年間労働時間制を採用している会社の場合、その年の12月31日をもって残業代が確定するので、支払いは翌年以降となります。年度途中での退社の場合は退社時に残業代が清算されます。
会社全体の取り決めによって残業の取り扱いも少し違うので、疑問がある場合は会社のRHに問い合わせましょう。