あーやっと夏のバカンスだぁ。プール最高!ズルっ
あー手首、折れてますね、完璧に折れてます。2週間をめどに家で安静にしてください
がーん。有給はじまったばかりなのに家に2週間も…
どうしますか、会社に提出する病欠証明書出しますか?
え、でも今、有給中だし、病欠って意味ないよね?あ、でも有給キャンセルして病欠に切り替えることできるのかな?そうだ、インターネットで他の人にきいてみよーっと。
しかし、Twitterやコミュニティーノートに書きこんでも、他の人の体験談が集まるだけであまり有益ではありません。
会社員生活で疑問が生じた際、まず最初にすべきことは勤務先のConvention collective(団体協約)を確認することです。一方でこの単語、あまりなじみがないかもしれません。
Convention collectiveってなに?
何のためにあるの?
何が書いてあるの?
そんな疑問に答えるために、以下ではConvention collectiveについて解説していきます。
フランスでの労働条件を定めた規範
フランスにおける労働条件の規範は、私たちの社会生活に関わるレベルでは以下の6つです。上にいくほど規範性が高くなります。
- フランスのCode du travail(労働法典)
- 全国レベルの産業横断的な協約Accord national interprofessionnel(全国的業際協定)
- 産業別のConvention collective(団体協約)
- 各企業内部でのAccord d’entreprise(企業内協定)
- 明文化されてはいないルールUsage(慣例)
- 雇用主との間で交わされるContrat de travail(労働契約)
私たちにとってなじみが深いのは、6番目の労働契約ですね。
しかし、労働契約は上の順位からみてもわかるように、一番規範性が低いものです。規範性が低いということは、例えば、3、4、5のどれかにボーナス給付の規定がある場合、労働契約書にボーナスなし等の記載はできません。
一方で団体協約にも企業内協定にもボーナスの規定はないが、交渉の結果ボーナスの規定を含んだ労働契約を結んだ場合、労働契約が3、4、5に優先されます。被雇用者の利益になる限りでは上位規範の制約を受けません。
1から6を全部みると少し話が複雑になるので、今回はConvention collectiveに焦点を絞って説明していきましょう。
Convention collectiveって何?
Convention collective(団体協約)とは各業界の労働組合と使用者団体の間で締結される、給与体系、労働条件、雇用条件、福利厚生等を定めた労働条件全般に関わる労働協約のことです。
フランスには650以上の協約が存在し、業務内容によって適用されるConvention collective は決められいます。
例えばパティスリーにはパティスリーの全国団体協約が、魚屋には魚屋の全国団体協約が適用されます(一方でスーパー内のパティスリーや魚屋の場合は全国小売団体協約に属することが多いです)。銀行、不動産、薬品工業等の団体協約はもちろん、競馬場で働く人を対象としたもの、テーマパークの団体協約も存在します。
日本では労働協約は労働組合の組合員のみを対象としていますが、フランスでは組合員か否かに関わらず、その産業で働くすべての労働者に対して団体協約の規範が及びます。93%以上の労働者が何かしらのConvention collectiveに属しているのです。
えーでも私が働いてるところ、小さいパン屋だし、そーゆーの入ってないと思うよ?
という人がたまにいますが、フランスで仕事をしている以上、企業の大小、事業の規模は問題ではありません。また契約形態(CDI、CDD…)も関係ありません。あなたが働き始めた1日目から、その勤務先が属するConvention collectiveが適用されます。契約書もしくは給料明細の上段に記載されているはずなので、自分の勤務先のConventionを知らない人はまず確認しましょう。
一部、Conventionの適用を受けない契約形態の人もいます。VRP(vendeur, représentant et placier)=企業から依頼を受けて訪問販売を行う人がそれです。彼らは特殊な契約形態なので、協約の適用から除外されます。
Convention collectiveは何のためにあるの?
Convention collectiveは「職業の法(Loi de la profession)」と呼ばれるように、その職業に従事する人に関わる権利、義務を記したルールブックのようなものです。
Convention collectiveは上位規範であるCode du travail(労働法典)を補完します。それぞれの職業の特色、業務内容、活動エリアに合わせて、Code du travailがフォローしきれない労働条件について規定します。
そのため、Convention collectiveには私たちが働く際に必要な労働内容に関わる重要な情報が書かれているのです。例えば、以下のような疑問に対してConvention collectiveは答えてくれます。
- 試用期間はいつまで?
- どんなボーナス、職業手当が受け取れるの?
- 時間外労働はいくら支払われるの?
- いつ昇給するの?
- 結婚、出産、葬式に関わる特別休暇は何日?
- 退職届は何カ月前に出せばいいの?
- 退職金はいくらもらえるの?
皆さんが実際にサインする労働契約書には労働時間、月給、働く場所等々の基本的な事項が書かれてると思います。しかし、上記のような細々とした条件についてはConvention collectiveを参照することになります。そのため、大体の契約書には参照となるConventionの名前が表記されています。
Convention collectiveはどこで参照できるの?
雇用主は従業員が頻繁に出入りする場所(休憩室、事務所、更衣室など)にConvention collectiveを用意することが推奨されています。
また、フランス政府のサイトで探すこともできます。
https://code.travail.gouv.fr/outils/convention-collective
上記のサイトでは、自分のConventionを直接検索することもできますが、他の企業が何のConventionに属しているのかを見ることもできます。
大企業の場合、各事業体によって3つから4つ以上のConventionを適用していることも珍しくありません。
例えば大手スーパー、カルフールのパリ事業所を見てみましょう。
スーパー、旅行代理業務、ドライブの3つに分かれています。スーパーとドライブは小売業の協約を、カルフールVoyageはさらに旅行代理店とガイド業に分かれ、合計3つのConventionを採用していることが確認できます。
外部からではその企業がどんなConventionを採用しているのか分かりにくい面もあるので、転職を考えている際などにはこの検索機能はとても便利です。サイトをクリックしていくと、Convention collectiveの本文にたどり着きます。
Conventionは法律用語が多く、また本文とは別に追加条文も加わり、かなり分かりにくいものです。Conventionによっては参考書ほどの厚さになるものもあります(銀行などの業種は特に)。
中規模以上の企業では、従業員がよりアクセスしやすいように要点をまとめたものを会社の人事サイト等に載せていると思います。見たことがない人は、ぜひ一度目を通すことをおすすめします。
Convention collectiveは以下のサイトでも直接に検索、閲覧することができます。
https://www.legifrance.gouv.fr/liste/idcc?facetteTexteBase
Convention collectiveを理解するためには?
Convention collectiveは本文に対してさらに付属、追加、改定条文が加わり、かなり読みにくいものです。フランス人でもRH(人事)やService juridique(法務部)で仕事をする人以外で自分のConvention collectiveを万遍なく読み、理解している人はあまりいないと思います。
中小企業で人事担当者がいる場合、例えば「叔父が亡くなったが特別休暇はもらえるのか?」といった質問にも的確に答えてくれるでしょう。それが彼らの仕事でもあるので、遠慮することはありません。どんどん聞きましょう。
ただし、RH=雇用主といった小さな職場の場合、あれこれ質問するのは気がひけるし、雇用主の答えが団体協約を遵守しているかどうかわかりません。
全てを読んで理解する必要はありません。特別休暇や時間外労働など重要性が高いと思われるものを中心に目を通し、雇用主に質問するさいに「Conventionでは〇〇と書かれていたがどうか?」と具体的に聞いてみるといいと思います。
上記ですでに紹介したフランス政府のサイトはとても便利なのでぜひ活用してください。Conventionを調べる以外にも、退職金の計算等々も行える優れものです。
また、特に人々の関心の高い項目について各Conventionごとに要約したページもあります。ぜひ一読してください。https://code.travail.gouv.fr/convention-collective
Convention collectiveを読んでみよう
各Conventionに書かれている労働条件は当然のことながら業界ごとに全く違います。労働者にとって有利なものもあれば、最低限の労働条件しか規定していないところもあります。また、特に銀行のように仔細に規定しているところもあります。
Conventionに何が書かれているのか、実際に見てみましょう。今回はパティスリー全国団体協約を参照します。
パティスリー全国団体協約
パティスリー全国団体協約は、Convention collective nationale de la pâtisserie du 30 juin 1983. Etendue par arrêté du 29 décembre 1983 JONC 13 janvier 1984です。
なお、団体協約にはNationnal(全国) 、Régional(地方) 、Local(地域)の3つのレベルがあり、パティスリーの場合はConvention collective nationaleと書いてあるので、この協約がパティスリー業界では唯一の協約になります(ただし、近接した協約は存在します。例えばパン屋及びパティスリー全国団体協約などです)。
フランスで一番複雑なConvention collectiveはMétallurgie(金属工業)の団体協約です。フランス全体で約160万の従業員、4万2千の会社を擁する金属工業業界には、地域レベルでの協約が77、管理職の協約が1、さらに何百もの追加条項が加わり、複雑な上に近年の業界の発展に比して時代遅れの内容という評価を受けてきました。より時代に即した、工業業界全体の新しい労働環境の確立を目指し、5年という歳月をかけて協議を重ね、ついに2024年1月にNationalレベルの全国金属工業協約が日の目をみることになります。
さて、基本の条文は全部で7章です。
Convention collectiveにはいくつかの義務記載事項を除き決まった型はないので、それぞれ協約ごとに内容も体裁も異なります(とはいっても大体に似通っているものですが…)。
パティスリーの定義
第1章では、適用される業種の内容、協約の見直し、破棄等々、主に協約全体の条件について書かれています。
一言で「パティスリー」といっても、いわゆるケーキ屋だけを指すのか、チョコレート専門店は含まれるのか、アイスクリーム屋はパティスリーなのか、というなかなかに漠然な問いに対して、第1章ではパティスリー全国団体協定が適用される業務内容について説明があります。一部を抜粋してみましょう。
Est réputé pâtissier, confiseur, glacier, chocolatier, salon de thé, traiteur celui qui pratique toutes opérations en vue d’élaborer, de fabriquer, de livrer, de servir à la consommation, principalement au détail, les différents articles résultant de la transformation dans son laboratoire des matières premières usuelles et produits annexes ainsi que de confectionner les plats cuisinés pour la vente directe ou pour répondre à une commande ou à une livraison. Il peut vendre également tous les produits et articles achetés en l’état ou ayant subi ou non quelque transformation que ce soit. Les clauses de la présente convention concernent tous les salariés des établissements entrant dans le champ d’application défini ci-dessus, à l’exclusion des gérants, pris au sens du droit des sociétés commerciales.
要するに、製造から販売までを一貫して行う生菓子、コンフィズリー、チョコレート、アイスクリーム、総菜を扱うお店、が「パティスリー」ということになるでしょうか。
ふと、近所のチョコレート屋もパティスリーの協約なのか?と思い、調べてみたら、チョコレート、コンフィズリー、ビスキュイの団体協約にたどり着きました。
Convention collective nationale des détaillants et détaillants-fabricants de la confiserie, chocolaterie, biscuiterie du 1er janvier 1984. Etendue par arrêté du 2 octobre 1984 JONC 12 octobre 1984.
はて、パティスリーとの違いは?と思い読んでみると、チョコレート、コンフィズリー、ビスキュイ製造販売の占める売り上げの割合が高い場合は、パティスリーではなく、こちらの協約が適用されるようです。
皆さんもご存じのように、フランスのパティスリーはケーキ等の生菓子や焼き菓子のみならず、チョコレート、クロワッサンやパンオショコラ等のヴィエノワズリー、アイスクリーム、キャンディさらには総菜まで幅広く扱っています。そこからさらに専門化した業態の場合は別の協約があるんですね。
上記したフランス政府のサイトは本当に便利で、色々な店舗、会社のConventionを知ることができるので、ぜひ、皆さんも自分の近所のお店や気になる会社を調べてみてください。
パティスリー業界の労働契約
第2章は自由、集団および個人の権利です。労働組合参加への自由、職業上の平等、差別の禁止、従業員代表の選出方法等について記載しています。4章は健康と安全に関して、5章は見習い実習生について、6章は委員会の開催について、7章は共済保険についての記載です。
そして第3章が労働契約です。かなり長いので、関心が高そうな点にしぼってみていくことにしましょう。
- 試用期間は管理職の場合は3ヶ月、その他は5週間。
- 管理職の場合は年間労働日数制の213日で採用できる。
- 単純な過失、重大な過失を除き、かつ試用期間が過ぎた後に解雇を行う場合、管理職の場合は3ヶ月、それ以外は1ヶ月の告知期間(Préavis)を設ける。辞職の場合、被雇用者は同様の告知期間を雇用者に対して設けることが必要。
- 単純な過失(Faute grave)、重大な過失(Faute lourde)及び経済的理由を除く解雇の場合、2年以上の勤務年数がある場合は解雇手当が受け取れる。2年以降1年ごとに参考月給の10分の1、10年以降は15分の1が追加される。
- 定年退職の場合、10年以上の勤務年数で参考月給の1ヶ月分の退職金が受け取れる(勤務年数が増えるほどに退職金も上がる)。
- 祝日の勤務は100%、5月1日に勤務した場合は150%の割り増し手当が加算される
- 特別休暇は勤務年数に関係なく与えられる。特別休暇は勤務日に数えられる。
特別休暇 | 付与される休暇日数 |
結婚、PACS | 4日 |
子供の結婚 | 1日 |
出産、もしくは養子の受け入れ | 3日 |
子供の死亡 | 5日 |
配偶者、PACSの相手もしくは同居人の死亡 | 3日 |
父、母の死亡 | 3日 |
義父、義母の死亡 | 3日 |
兄弟姉妹の死亡 | 3日 |
子供の障害 | 2日 |
- 有給休暇は2週間連続で取得できる。2週間以上の場合は雇用主は従業員の同意のもと2週目以降の有給休暇を分割で取得させることができる。
- 妊娠を理由にした契約の解除はいかなる場合も認められない。
- 妊娠5ヶ月目から30分の労働時間の短縮を受けることができる。雇用主との話し合いで、15分x2回の休憩の追加、30分遅れて出勤もしくは30分早めに退勤が選べる。短縮分は労働時間に数えられる。
- 子供の父親、母親は年間12日を上限に12歳以下の子供の病気療養を目的とした休暇を取得できる。ただし無給。
- 通学している子供の父親、母親は学校の始業日には半日の特別休暇を取得できる。この時間は労働時間に数えられる。
- 病気休養の場合、1年以上の勤務年数で雇用主補償が受け取れる。補償は4日目以降、180日間、健康保険給付金を除いた後の全体の90%。
というわけで、ざっと見てきました。本当はもっと細かく、パートタイムの労働条件や、集団解雇の場合の解雇手当、夜間勤務手当等々書いてあるのですが、少し息切れしてきたので(私が)これまでにします。
なお、給料表は一番最後Textes SalairesのAvenant(追加条項)に最新のものがあります。
まとめ
さて、ここまでConvention collectiveについて詳しく見てきました。
冒頭の、有給一日目で滑って足を折った例に戻りましょう。猫さんは有給をキャンセルして、病欠に切り替えることができるのかどうか?
基本的にはできません。というのも、一番最初のイベントが優先される、という基本原則があるからです(ただし、Conventionに有給の振り替えについての記述があれば別です)。
たとえば、有給の前日に病気になった場合、有給をキャンセルし、別の日に振り替えることができます。これは、病気が一番最初のイベントとみなされ、それが優先されるからです。
同様に、有給中もしくは病気で会社を休んでいる際に親族が亡くなったとします。この場合、原則的に特別休暇は取得できません。なぜなら、当事者はすでに会社を休んでいるからです。
では、猫さんは本当に2週間の有給を家で消化しなくてはならないのでしょうか?
実はOuiともNonともいえるのです。
Conventionには私たち労働者にも関心の高い情報が記載され、大変に有益なものです。一度目を通しておくべきでしょう。しかしながら、Conventionの内容が無条件に全て適用されるわけではありません。
これを理解するためには、最初に少し触れた、規範性の強弱について知る必要があります。
そのあたりを第2回で詳しくみていきましょう。
有給中でも、セキュ(公的健康保険)から休養手当を受け取ることができます(ただし、条件がそろっても雇用主補償は有給中は受け取れません)。有給中に病気になった場合でも、医師の診察を受けて病欠証明書を出してもらい、RHもしくは上司に48時間以内に送りましょう。
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