フランスで迎える定年退職。日本とは違う企業文化のなかで働くのは大変なことも多かったことでしょう。本当にお疲れさまでした!
…とお祝いする前に。
貴方は本当に定年退職できますか?
年金事務所に定年退職の申請をしましたか?
会社に定年退職の手続きをしましたか?
気持ち的には準備ができていても、全ての手続きが済んでなければ定年退職できません。
というわけで、今回は定年退職する際の会社への手続きと定年退職時にもらえる退職金についてみていきましょう。
なお、定年の条件等については以下の記事に詳しく書いているので、読んでみてください。
定年退職を考えはじめたらすべきこと
定年退職について考え始めたら、まずはInformation Retraite (https://www.info-retraite.fr/portail-services/accueil)のサイトにアクセスして自身の保険料納付状況について確認しましょう。
Information Retraiteでは年金保険制度の違い(民間企業勤務、公務員、国鉄職員 etc..)に関わらず、職業キャリアを通じた、基礎年金と補足年金両方の保険料の納付状況と定年退職情報を一元的に管理しています。
35歳を過ぎるとInformation Retraite から手紙でこれまでの年金納付状況を時系列に並べたお知らせを手紙で受け取ります。55歳を過ぎたら、上記に追加して将来受け取れる年金の推定額の情報が送られてきます。
また、45歳以降は年金事務所で対面の面接を申し込むことができます。年金の詳細やアドバイスを受け取ることが可能です。
Ma carrièreでは今現在の年金保険料納付状況について、Mon estimation retraiteでは将来もらえる年金額のシュミレーションを見ることができます。

フランスの年金について知ろう③に詳しく書いたように、172 trimestres(1968年1月1日以降の生まれ)を納めて64歳で定年退職する場合と、172 trimestres未満で定年退職を選択する場合、そして67歳以降まで年金保険料を納めて定年退職をする場合ではもらえる年金額が違います。
上記のサイトでは、64歳と67歳での年金受給額のシュミレーションもできるので、40歳を過ぎたら度々サイトを覗いてみるといいでしょう。
定年退職までの流れ
フランス人の中にも、今日申請すれば明日には会社を定年退職をできると思い込んでいる人がいますが、大きな間違いです。

9月30日をもって会社を定年退職します!

9月30日って1週間後ですけど、年金事務所に手続きしましたか?証明書は?人事に年金事務所の証明書を添えて辞める日の1ヶ月前には出してくださいね?

えっ。自己申告で辞めれないの?

ダメです。特に年金事務所の証明書は必須です。退職希望日の少なくとも5ヶ月前に年金事務所に申請するようにサイトに書いてありますよ。

そ、そんな…
というやり取りは日常茶飯事です。そこで、退職までの手続きの流れを見ていきましょう。
① 定年退職する日を決める
いつ定年退職をするのか、日にちを決めるのは貴方自身です。
64歳を過ぎたから定年退職をしなくてはいけない、ということはありません。本人が希望すれば70歳まで、会社側が承諾すれば70歳以降も働き続けることができます。
会社側は社員が64歳を過ぎたことを理由に退職を強制することはできません。社員が67歳を過ぎると、会社側は引退勧告(Mise à la retraite)を行うことができますが、強制力はありません。引退勧告が強制力をもつのは社員の年齢が70歳を過ぎてからで、70歳を過ぎたら本人の承諾を得ずに退職を強制することができます。
年金受給の資格は定年年齢に達した翌月の1日からです。例えば8月26日に64歳の誕生日を迎える人は、翌月の9月1日からです。
この定年の出発点は必ず月の1日になります。よって、会社を定年退職するのは月の末日になります(上の例だと8月31日に退職→9月1日から年金受給生活に入る)。
② 年金事務所に申請する
退職日を決めたら、年金申請手続きを行います。
手続きは冒頭で紹介したInformation Retraite (https://www.info-retraite.fr/portail-services/accueil)のサイトから行うことができます。
年金には基礎年金と補足年金の二つの制度があり、また民間、自営業、公務員等々の職業カテゴリーによって年金を取り扱う事務所が異なりますが、サイト上では全ての手続きを一括して行うことができます。
必要な書類を事前に確認して、退職希望日の少なくとも5ヶ月前には申請を行うようにしましょう。
書類が受理されたら、年金事務所から年金受給の承認と開始日を記した証明書が送られてきます。これをコピーしておきましょう。
③ 会社に定年退職届を出す
年金申請手続きが完了したら、会社に定年退職届を出します。
定年退職届は辞職届と同様の体裁で構いません。退職日の日付を記して、自分と会社用に2部コピーをしてサインをします。
Préavis(事前通知期間)はConvention collectiveおよび契約書にその旨が書いてあればそれに従います。
特に記載がない場合は、以下の通りになります。
・会社の在籍期間が6ヶ月以上2年以下の場合…
→ 1ヶ月前のPréavis
・会社の在籍期間が2年以上の場合…
→ 2ヶ月前のPréavis
定年退職届を出す際、会社側から年金事務所からの証明書の提出を求められます。これは必ず提出する必要があるので注意しましょう。
年金事務所からの証明書の提出は「義務」ではないのですが、ほぼ全ての会社で提出が求められます。というのも、年金事務所の証明書がないと、定年退職と辞職との区別が会社側には判断できないからです。よって、定年退職金の計算もできないし、各種保険事務所への申請を行うこともできません。
定年退職までの流れのまとめ
さて、以上見てきたことをまとめると、次のような流れになります。

2025年8月15日に64歳の誕生日を迎える。翌月の9月1日から年金生活を開始したい
- 2025年4月前に年金受給手続きを開始する
- 2025年6月に会社側に定年退職届を提出する
- 2025年8月31日付けで会社を定年退職。翌日の9月1日から年金生活に入る
会社のCSE(従業員の代表委員会)から定年退職慰労金を貰えることもあるので、CSEへの手続きも忘れずにしましょう。
定年退職の際の退職金について(Indemnité départ à la retraite)
フランスでは定年退職をする際に支払われる退職金のことをIndemnité départ à la retraiteと呼びます。計算方法は労働法と団体協約Convention collectiveの2つがあり、2つの方法で計算して金額が大きい方を最後の月の給料と一緒に支払います。
一般的に、フランスの退職金は日本に比べてかなり低い金額です。
もちろん、各業界にもよりますが、多くのConvention collectiveでは月の1ヶ月~3ヶ月、多くても6ヶ月分の月収相当が退職金として支払われます。
以下では労働法と団体協約の2つの計算方法を見ていきましょう。
労働法に基づく退職金の計算方法
労働法でもConvention collectiveでも、退職金の基本となるのは Salaire de référence、参考給料額と呼ばれる金額です。
Salaire de référenceは退職月を含めた過去12ヶ月と直近の3ヶ月のBrut (社会保障費が引かれる前の金額)の平均額を比較して、大きい方を採用します。
退職金は誰にでも払われるわけではありません。在籍期間の条件があります。
| 在籍期間 | 支給額 |
| 10年以上、15年未満 | 参考給料の1/2の額 |
| 15年以上、20年未満 | 参考給料の1ヶ月分の額 |
| 20年以上、30年未満 | 参考給料の1ヶ月と1/2分の額 |
| 30年以上 | 参考給料の2ヶ月分の額 |
例えば毎月3000€Brutで稼いでいる人で参考給料も同額の場合、10年以上働いている場合は最低でも1500€が、勤続30年を超えた場合には6000€が退職金として支払われます。
団体協約(Convention collective)に基づく退職金の計算方法
各業界のConvention collectiveには定年退職時の退職金に関する取り決めがあります。
管理職か非管理職かで支給条件の年数や退職金の計算が違うところもあれば、全ての社員に同一の条件を課しているConventionもあります。
退職金支給の条件に10年以上の勤務年数を課しているところが多いですが、1年でも働けば退職金が出るConventionもあります。
よって、所属会社のConvention collectiveによって退職金の支給は実に様々です。以下で大型スーパーの協約を例にみてみましょう。
Commerce de détail et de gros à prédominance alimentaireの労働協約
Commerce de détail et de gros à prédominance alimentaireはカルフールやルクレール、インターマルシェ等のHypermarchéと呼ばれる大型スーパーで採用されている労働協約です。
| 在籍期間 | 支給額 |
| 10年まで | 1年ごとに参考給料の2/20の額 |
| 10年以降 | 1年ごとに参考給料の3/20の額 |
| 20年以降(管理職のみ) | 1年ごとに参考給料の5/20の額 |
退職金が支払われるのは10年以上継続して勤務をしている社員のみです。
また、非管理職の場合は退職金の合計が4ヶ月分の参考給料、管理職の場合は6ヶ月を超えません。

非管理職で25年勤務。参考給料額は月3000€Brut
上記の社員の退職金は…
10年まで…3000×2/20x10年=3000€
10年以降…3000×3/20x15年=6750€
合計で退職金は9750€です。上限の4ヶ月分(3000×4ヶ月=12000€)よりも下で、労働法(参考給料の1ヶ月と1/2分の額=4500€)よりも上なので、9750€が退職金として支払われます。
退職金は社会保険料、所得税の対象
退職金は社会保険料、税金、所得税の対象となります。
いつ定年退職する?退職届を出す前に知っておきたいこと
「定年退職するには、年の初めがいい」とはよく耳にする言葉です。
年末ではなく、年始の定年退職が有利な理由とはなんでしょうか?
年金受給額を増やすため
冒頭でも書いたように、定年になったから退職を選択しなければいけない、ということはありません。希望すれば、70歳までは自分の意思で会社に留まることができます。
基礎年金の受給額はキャリア全体を通して一番高い年収の25年分の平均によって決まります。
年を取るほどに年収は増加傾向にあるので、年の途中で退職するよりも1年を終えてキャリアの最終年の収入を年金受給額の計算に組み込んでもらう方が年金の額が増えます。
所得税の支払いを減らすため
所得税は前年度の1月から12月に得た収入に掛かります。年金も収入なので、もちろん所得税の対象になります。ただし、一般的にいって、年金収入は労働収入よりも低いです。
例えば月々3000€Brutの収入を得ている人が2025年12月31日に9750€の退職金を受け取って会社を辞めるとします。2026年1月からは2100€の年金を受給します。所得税の対象となる2025年度の収入は3000€ x 12ヶ月 + 9750€ = 45750€ 、2026年度収入は25200€です。
対して、2026年1月31日をもって退職し、2026年2月より年金で生活する場合、2025年度分は36000 €、2026年度分は 2100€ x 11ヶ月 + 3000€ + 9750€ = 35850€となります。
所得税額を計算すると、2025年度と2026年度を合わせた税額は2026年1月31日をもって退職する方(つまり年初めの退職)がおよそ700€の節税となります。(一人暮らしの場合です。同居人、扶養家族の有無等々によって納税額は変動します)
まとめ
定年退職の手続きは100%従業員側が行います。
会社側から「定年が近づいてますよ、手続きはしましたか?」と優しく声を掛けられることはないので、自ら年金サイトや年金事務所で情報収集をしてXデーに向けて準備をすすめましょう。
日本と比べてフランスの退職金の微々たるものに驚いた人もいるのではないでしょうか。
また、最低でも10年の継続勤務等の条件もあります。自分が退職金支給の対象となるか、定年について考え始めたらConventionで確認してみるといいかもしれませんね。
最近の物価高の影響で、年金だけで必要十分な生活を送ることが難しくなってきています。定年退職をした後に、前の職場にCDD契約で戻ってくる人も増えています。
年金に労働収入を上乗せすることは可能です。ただしいくつかの条件があるので、次の機会に詳しく書きます。





