日本で取得した職業資格をフランス国内でも通用するように書き換えることはできるのでしょうか?
基本的にはNonです。
フランスの法律で規制されている職業を行うためには、フランスで資格を取り直す必要があります。
例えば弁護士、公認会計士、建築士、看護師、医師、助産師等々の職業がそれにあたります。
一方である条件下において職業の互換性を認めてくれる職種もあります。
というわけで、この記事では、資格の互換性について、詳しく掘り下げていきましょう。
日本の美容師免許でフランスで仕事はできるか?
本題に入る前に、質問です。
日本の美容師免許を所持している人がフランスで美容師の仕事に就けるでしょうか?
美容師の職業は医師や弁護士と同様に、法律で規制されている職業のひとつです。
しかしながら答えはOuiです
フランスでの美容師の職業資格を取り直す必要はなく、フランスの店舗で美容師としての仕事ができます。
では、個人事業主として自分の美容院を開きたい、訪問で顧客の髪を切りたい、もしくは自宅にサロンを作りたいとなった場合、どうでしょうか?
答えはNonです。フランスでのディプロムを持たずに個人事業主として活動することはできません。
この違いはなんでしょうか?
記事の最後に、またこの主題に戻ってきましょう。
法律で規制される特定の職業
前回の記事にも書いたように、フランスの職業は大きく2つのカテゴリーに分類されます。
Profession non réglementéeとProfession réglementée、つまり法律で規制されない職業と法律の規制を受ける職業です。後者の場合、職務を遂行するためにはディプロム(学歴、資格)の有無が問われます。
Profession non réglementée / 法律で規制されない職業
法律で規制されていない職種では、貴方を雇うかどうかを決定するのは雇用主側の一存です。
例えばマーケティング業務、貿易アシスタント、人事、販売の仕事等に就くのに法律で定められた資格というものはありません。
雇い主側が貴方の学歴と能力および職歴を評価して採用を決め、雇用契約を結びます。
一方で、フランスではDiplôme(学歴、資格)の有無が就職採用で重視されます。Centre ENIC-NARIという、日本で取得した学歴をフランスの教育制度に照らし合わせて証明してくれる政府機関があります。
就職活動を本格化する前に、ぜひ学歴の書き換えを行いましょう。
Profession réglementée / 法律で規制される職業
Profession réglementéeとは、その職務を遂行するにあたって法律で規制されている職業です。
今現在、フランスには250以上のProfession réglementéeが存在します。
Profession réglementéeはさらに二つのカテゴリーに分類することができます。
① Les professions libérales et offices ministériels / 自由業者及び官公署に従事
医師、看護師、助産師等の医療従事者、弁護士、建築士、公認会計士、法定執行官、公証人等、公共サービスに従事する職業です。
医師免許、看護師免許等の資格を保持せずにこれらの職業に従事することはできません。
② Les professions commerciales et artisanales / 商業および手工業に従事
機械技師、電気技師、水道技師、魚や肉を扱う専門の職人(Poissonnier / Boucher)、菓子職人、パン職人、旅行業者、不動産業者等々の職業に従事する人々です。
こうした職業に従事するためには、①と同様に資格が必要です。ただし、①とは違い、個人事業主ではなく、従業員として職務に従事する分には、資格の有無が問われない職種もあります。
個人事業主ではなく、従業員として働く場合
規制された職業に従事するための条件等については以下のサイトで検索できます。
Annuaire des activités et professions réglementées
https://www.inpi.fr/annuaire-activites-professions-reglementees
例えば看護士の場合、以下のような記述があります。
La profession d’infirmier est réservée aux personnes titulaires du diplôme d’État d’infirmier
ou d’un titre listé par l’arrêté du 13 novembre 1964.
つまり、看護師という職務は唯一、国家資格である看護資格を持った人のみが就くことができるということです。
一方で、美容師はというと、
L’intéressé souhaitant exercer l’activité de coiffeur en salon doit disposer d’une qualification professionnelle ou exercer sous le contrôle effectif et permanent d’une personne ayant cette qualification.
サロンで仕事をする場合、美容師の職業資格をもっているかもしくは資格保有者の管理下で仕事をすること、が条件です。
つまり、雇われて働いている分には資格の有無は問題にはならない、ということです。
ただし、個人事業主として働く場合は美容師の職業資格が必須です。
できる?できない?職業資格の書き換え
日本で取得した学位をフランスの教育制度に照らし合わせて、その有効性を証明してくれる機関がCentre ENIC-NARIC です。
この機関では基本的にはアカデミックな経歴の証明を行いますが、一部例外的に職業資格の証明を行ってくれる場合があります。
職業資格の証明を依頼する場合
Centre ENIC-NARICでは、法律で規制された職業のうち、先にみたLes professions commerciales et artisanalesのカテゴリーに属する一部職業について、当人が個人事業主ではなく雇われ(つまりサラリーマンとして働く)の場合に限り、フランス国外で取得した資格についての互換性を証明してくれます。
Centre ENIC-NARICが資格の書き換えを行ってくれる職種のリストは、以下の通りです。
Centre ENIC-NARICで資格の書き換えができる職種
https://www.france-education-international.fr/sites/default/files/medias/file/2021/04/enic-naric_professions-reglementees-comparabilite.pdf
一方で、Centre ENIC-NARICではLes professions libérales et offices ministérielsのカテゴリーに属する医師免許や看護師免許などの書き換えは行っていません。
ただし、大学への編入、選抜試験の受験等が理由の場合は、学歴と同様に資格の限定的な証明を行ってくれます。
EU諸国およびEU経済圏で取得した資格の場合、国境をまたがる活動に際しても、その有効性は担保されます。
つまりイタリアで取得した医師免許は、フランスでも有効ということです。フランスで学業をやり直して資格の再取得をする必要はありません。(もちろん、フランスで医療活動を行うための書き換え手続きをする必要はありますが)
例えば日本の美容師資格でフランスで仕事をする場合
それでは、一番最初の問題に戻りましょう。
日本で美容師資格を保有している人がフランスの美容院で働きたいと希望した場合、以下のような選択肢があります。
- フランスのサロンで雇われとして働く⇒フランスの美容師資格は必要なし。資格を提示したい場合は、Centre ENIC-NARICに資格の書き換えを依頼する。
- フランスで個人事業主として自分の店を持つ⇒自身がフランスで職業資格を取得するか、共同経営者もしくは従業員に資格保有者がいることが条件。
- 顧客の家に訪問して髪を切る(個人事業主)⇒フランスで職業資格を取得するか、3年以上の職業経験を商工会議所に申請して認めてもらう。
一方で、個人事業主として個人の店を持つ時に、地域にある商工会議所 (Chambre des Métiers et de l’Artisanat (CMA))に申請を行うと、商工会議所からCentre ENIC-NARICに外国で取得した資格の書き換え申請を行ってくれるようです。
いずれにしても、個人事業主として働く場合には、地域の商工会議所へ問い合わせを行いましょう。
例外 / Diplômes d’enseignement sportif ( スポーツ指導者の資格)
EU圏内、EU圏外に関わらず、フランス国外のスポーツ指導者の資格を保有している人は、以下のサイトで無料で資格の書き換えができます。
資格を書き換えた後は、各種のスポーツ分野で指導者としてフランス国内で活動をすることができます。
申請は以下のサイトで行います。
ARQUEDI
https://www.arquedi.sports.gouv.fr
まとめ
資格の書き換えについてみてきました。
まとめると、医療系分野の資格の書き換えは、その資格がEU経済圏外で取得したものである場合、不可です。また、ほとんどの医療分野の仕事は資格保持が必須です。よってフランスで同じ職種を目指す場合は、大学へ編入してフランスの国家試験に合格する必要があります。
他の分野の場合、その職務内容、勤務形態によって様々です。
基本的に、個人事業主を目指さない場合、従業員として働く場合は資格の有無は問われません。そうはいっても、資格も経験も証明できない外国人を雇ってくれる場所は少ないでしょう。
フランスで特定分野での就職を目指す人は、この記事を参考にして資格の書き換えを申請してみましょう。